「苦労している女性は、昔からいっぱいいると思います」
ところが、小池氏は私たちの取材に対して、意外そうな表情を浮かべた。
「夜の飲食のお仕事は、急に始まったわけではありません。苦労している女性は、昔からいっぱいいると思いますよ。そのニーズに応えるというのは行政としてあるべき姿ではないかと普通に思います。それが、何か特別な関心を引くというのは、へーって思うわね」
1月末、小池氏へのインタビューはこのように押され気味に始まった。
――知事は女性が夜間に子どもを預けて働くことをタブーとは思わないのですか?
「だって、いろんな仕事があるわけです。夜働いている人たちがいて、家族を持っている。その暮らしを支えることはごくあたり前のことだと思いますよ。なにもね、ルビコン川を渡るようなことではないわけです」
何をわかりきったことを聞いているのだろうといわんばかりである。
前出の天久さんは、深夜型の夜間保育園が増えない原因として、「自治体の担当者の間に、夜間保育は望ましくないという考え方が根強い」と指摘する。
平成28年度には全国で49カ所のベビーホテルが認可保育園に移行しているが、調査を実施した厚労省の少子化総合対策室では、そのうち夜間保育園に移行した園の有無を把握していなかった。他方、夜間保育園の数はここ数年、ほぼ横ばいである。既存園の中に夜間保育をやめた園がある可能性を考慮しても、ベビーホテルから夜間保育園に移行した施設は極めて少ない。
また、九州のある市では、ベビーホテルが認可保育園に移行した際、ベビーホテル側は夜間保育園への移行を望んだが、自治体に認められず、やむなく昼間の保育園として再スタートしたという事例もある。
シームレスなサポートは「行政のあるべき姿」
「もちろん、夜、子どもを預けるのはいかがなものか、という考え方もあるでしょう。けれども、夜のお仕事というのは実際にあるわけですから、そこをシームレスにサポートするというのは行政のあるべき姿だと思いますね。子どもの側から見るのと、働く親の側から見る、その両方が大事なんだろうと思います」(小池氏)
日本社会には子育ての責任は母親にあるとする「母性神話」が根強い。「夜、子どもは親と過ごすもの」という子育ての常識を軽々と飛び越えてみせると、小池氏の話は多様な働き方へと移った。
「働き方も職種も多様化しています。ナイトタイムエコノミーの観点からも、夜働く方たちの生活があって、その方たちが家族を持つのも選択として十分あり得ることです。東京は深夜営業が非常に多いわけですから、サポートしていかなくてはならないという思いがあります」
ナイトタイムエコノミーとは、夜間から深夜にかけての経済活動のことだ。訪日観光客が急増する東京で、ナイトタイムエコノミーの充実は重要な課題だが、一方で飲食店の人手不足は深刻である。