たとえば応接室の絵画は経営者が趣味で集めているのかもしれない。壁にかかったカレンダーに企業名が入っていればそこは取引先の一つだとわかるし、本棚の書籍は顧客の関心事を示している。どんなものも背景と理由があってそこに存在するのだから、観察力を働かせればさまざまなことが読み取れる。

「雑談ができない」と悩む若手営業担当者がいるが、もし話題がないなら、受付から応接室に至る間に見つけたものについて話せばいい。

「御社の受付にある生花はきれいですね」
 「社員イベントの案内がありましたが、開催はいつですか?」

そんな何気ない話から、社風や考え方が見えてくるかもしれない。そうすればより的確に感情移入できるようになる。

観察力の中で最も重要なのが、相手の表情や仕草の変化からシグナルを読み取る能力だ。

プレゼンのときも観察力を働かせることでさまざまなことがわかる。プレゼンを聞く人は初めのうち、たいてい腕を組み背もたれによりかかっている。無意識に話し手との間に壁をつくっているのだ。ところが提案内容にメリットを感じて話に興味を持つと、姿勢が前かがみになり目に生気が出てくる。

プレゼン中にあらぬ方向を向いて考えている人は、まだ頭の中で整理できていないことがあり、置かれている状況や基本的な情報を整理しようとしている段階と推察できる。資料のデータを注意深く見ている人は、提案内容を吟味している段階と考えられる。同席した上司にたびたび視線を向けている人は、意思決定者の意向を探っているのだろう。

もちろん個人によって反応の仕方は異なるため、すべての表情や仕草の解釈を一般化することはできないが、相手の動きや表情だけでも、その意思や真剣度がある程度はわかるのだ。

(構成=宮内 健 撮影=早川智哉)