これから起きる地政学的大変化! 日本にとってのメリットは何か!?

日本にとっての影響も、単純な経済の面だけではなく、地政学的な大局観で考えるべきだ。世界地図を見るとユーラシア大陸の東に日本、西にイギリスがある。両島国でユーラシア大陸を挟んでいる。そしてイギリスは旧植民地などとともに53国でイギリス連邦を構成している。このメンバーの国の位置をみたら凄い。アフリカにインドに、シンガポール、オーストラリア。北アメリカではカナダ。それに海にちりばめられた数々の島。イギリス連邦ではないが、アメリカはもちろん特殊な関係だ。

日本はこれらの国とがっちりネットワークを組むことに大きな利益があるはずだ。これまでイギリスはEUに足を突っ込んでいたが、日本側に引き込めばいい。冷戦構造が崩壊し、アメリカ一極体制が続いたが、それも崩壊した。中国が大きく台頭し、ロシアも大国への復権を虎視眈々と狙っている。そこにEUというヨーロッパの塊ができつつある。

このような状況下で、学校でいえばイギリスの「クラス替え」が起きたのだ。これは日本にとってメリットも大きいはず。これからの世界のパワーバランスは、中国、ロシア、EU、そして海洋国家ネットワークという構成にもなり得る。中国、ロシア、EUは大陸系だ。インドやシンガポール、オーストラリア、カナダをはじめとするイギリス連邦に、アメリカ、日本を加えた海洋国家グループ。それぞれの国の価値観もばっちり合うだろう。新しい国際政治パワーを作るには、イギリスをEUから引き離す戦略が効いてくる。ポリティカル・コレクトネスや経済的な側面だけで、EUは一つ!と言い続けることの方が思慮に浅い。

イギリスがEUに残る方が日本にとっていいのか、離脱する方がメリットなのか、深く戦略的な賢い思考をしなければらない。そのためには、離脱は感情的、ポピュリズムの判断だ!という今の日本の自称インテリの思考こそ駆逐しなければならない。

と、ここまで書いたところで、イギリスでは保守党党首選の行方が混沌としてきた。離脱派勝利の立役者であるボリス・ジョンソン氏が不出馬。代わってゴーブ氏が出馬するも、党内議員の間では残留派のメイ氏が強い。イギリスの政党党首選は、最後は一般党員が決する。まさに議会制民主主義を直接民主主義が補完する形。一般党員による投票が、感情に流される!! 非理性的だ!! ポピュリズムだ!! なんていう声は聞かない。だから国民投票自体をポピュリズムだと批判する声も、当のイギリスでは聞かない。ポピュリズムという言葉を多用するのは、日本くらいで、まだまだ民主主義が成熟していない証拠。

元へ。ここで残留派のメイ氏が、残留を主張して党首に選ばれたらどうなるか。保守党党員投票と国民投票の結果が異なることになるが、保守党党首選である以上、保守党党員の投票を重く受け止めなければならないことは間違いない。保守党党員の投票結果を受けて、今後、メイ氏が総選挙でさらに残留を訴えて勝利したらどうなるか。

結局のところ、今回の国民投票には法的拘束力がないことが将来の不確実性の最大の原因だ。今回の離脱騒動は、国民投票の結果を受けて、政治家が離脱を「政治的に」決断することに過ぎない。法的な話ではない。であれば、諸般の事情によって、「政治的に」残留に変えることもできる。そのためには、残留派のメイ氏が、残留を唱えて党首選に勝ち、残留を唱えて総選挙に勝つ必要がある。その上で残留に変更、そこまでできなくてもEUへの離脱の通知を遅らせる。

これだけの政治的プロセスを踏んでイギリス国民の残留の意思を表に出したら、イギリスからの離脱通知が遅れてもEUは文句を言えないだろう。そうこうしているうちに、離脱に沸いた国民の熱も冷めるかもしれない。いずれにせよ、残留派が、国民投票をポピュリズムだと批判するだけでは何の進展もない。それは口だけの人のいつものパターン。離脱という今回の国民投票の結果を尊重しながら、残留にもっていくには、政治的なプロセスが必要。それは、保守党党首選と総選挙を使うしかない。これが問題解決のための実行プロセスだ。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.13(7月5日配信)の一部です。

(撮影=市来朋久)
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