なぜたまる? 部下のフラストレーション
では、なぜ作業を抱え込む人がいるのかといえば、楽なんですよね。考えなくていいから。何か仕事をしている気にもなれる。だけど、それでは本来の管理職の役割を果たしていない。面談などで注意をしても改まらないとすれば、替えるしかないですよね。そういう上司を置いておくのは会社の責任でもあるわけですから。役割を果たしていない上司はリスペクトされないでしょう。部下にフラストレーションを与えるばかりになってしまう。
上司がやるべき仕事は、部下に課題を与え、イノベーションにつながる発想を促すこと。出てきたアイデアの中から可能性の芽を見つけ、そこにプラスアルファしたり、ブラッシュアップしたりして、本人が考えているよりも大きく育ててやることです。
そういう意味では――質問の趣旨をひっくり返すようですけれども――私は、仕事を部下に完全に任せたことはありません。自分の見つけた疑問や気づきを投げかけ、タイムライン(予定)を示していったんは考えさせるけれども、自分はそれ以上に考える。丸投げなんてありえないですよ。プロセスは全部見にいくし、タイムラインに合わせてチェックしていく。そうすることによって、部長よりも専務、専務よりも私と、責任の重い人間がそのつど、方向性や方法論が正しいかどうかを見ていけるわけで、それが部下を育てることにもつながっていくわけです。
けれども逆に、下の人間から気づきを与えられることもあるんです。私がなぜ部下に細かいところまで報告をしてもらうかといえば、自分自身も学べるからです。必ずしも部下より上司のほうが100%勝っているわけではありません。
社員に考える力を付けてもらうために全社員を対象にした「イノベーションアワード」を毎年開いています。アイデアを募集するだけでなく、実行させ、その成果を募ります。大賞は100万円。
しかし、ややもすると「今年はうちの部下からは大したアイデアが出てきませんでした」という管理職が出てくる。部下のアイデアの芽を見抜く力が養われていないのです。
この賞は社員の発想力やモチベーションを高めるためだけにつくったわけではありません。管理職が部下のアイデアに啓発されて、さらに100倍くらい大きなアイデアに仕立ててやる。その手柄を部下に立てさせてやる。そうした管理職の目を鍛えるためのアワードでもあるのです。部下の能力と上司の能力をすりあわせなければ、イノベーティブな仕事を創り出すことはできません。そのためには、プロセス全体をチェックすることが大事なのです。これができていけば、持続的成長への土壌が年々つくられていきます。