【弘兼】ああ、退社の危機を救ったのも、ジャズだったんですね。その後、小川さんは01年からネットワークサービス事業の担当になりました。
【小川】配信サービスの開発に携わりました。音楽の流れを端的に説明すると、CDでデジタル化となり、その後、ネットワークというインフラが出てきます。ネットワークで音楽を配信するにはできるだけ圧縮しなければなりません。
【弘兼】つまり音質を落として、データのサイズを小さくする。
【小川】ええ。それでハイファイ(高忠実度、高再現性)というカテゴリー自体が衰退していき、10年にテクニクスブランドは休眠します。その後、ネットワークインフラがリッチになってきて、CDの音質を超えるハイレゾリューションコンテンツ(ハイレゾ)が配信可能になった。それで、昔のアナログのような豊かな音源が再び求められるようになってきたんです。その兆しを感じたテクニクス出身の技術者たちが集まり、パナソニックブランドでハイレゾのミニコンポを開発し、ヨーロッパの評論家に聞いてもらったところ、「これは素晴らしい」と評価された。そのときに「昔、テクニクスというブランドがあった。こうした高級音響機器はパナソニックではなくテクニクスで出したらどうか」と言われ、技術者たちが「もう一度テクニクスをやろう」と動き出したんです。
【弘兼】それで小川さんの指示のもと、14年5月からテクニクス復活プロジェクトがスタート。現在のテクニクスのラインアップを見ると、最高峰のR1シリーズセットで、500万円を超えます。最も安いシリーズでも20万円以上。今、コンポといえば、数万円で手に入る中、あえてその値段を打ち出した。
【小川】パナソニックでは冷蔵庫や洗濯機などいわゆる「白物家電」についても今までの機能的価値だけではなく、感性的な価値を重視してプレミアムなものを出していこうという方針になっています。なかでもオーディオ機器というのは、もっとも人間の想像力をかき立てる、感性の一番深いところに触れる商品なので、プレミアムなものに対する需要はあると見ています。