3400台を広告媒体に
「勝負を分けるのは、いかに『タクシーのハートをつかむか』ということです。最後の最後、鼻の差で勝つとしたら、タクシーへの深い理解が必要です」
だから全国タクシーの開発は、出庫時間には大勢の乗務員が出入りし、にぎやかな声に包まれるタクシー会社の社屋で行われなければならない。リーダーの川鍋は、大部分は社歴の浅いメンバーに対してその理念を説きつづけ、ときにぶつかり合いながらも「リアル(タクシー)×IT」の理想を追求しているのである。
その本社屋の会議室で、IT部門のトップであるジャパンタクシーCTOの岩田和宏(36歳)の話を聞いた。大企業の研究開発部門を1年で飛び出し、シリコンバレーや日本のソフト会社で活躍してきた俊英である。知識と同じ15年10月に日本交通グループへ移ってきた。
「誰と、何を、いつやるか。そのことにこだわって仕事をしてきました。オフィスの環境とか、報酬の額が問題ではありません。いまはタクシーという伝統的な業界に、外資の攻勢もあって大きな変革が起きようとしています。IT絡みでいろんなことができそうですから、それだけでもわくわくします。しかもトップと会ってみたら、改革をいとわない、非常におもしろい人(笑)。川鍋には僕たちの発想にブレーキをかけるどころか、がんがんやっていこうというノリがあります」
そう語る岩田は、全国タクシーや社内システムの開発の指揮にあたるほか、タクシーを媒体ととらえた新しいビジネスの立ち上げにもかかわっている。
たとえば、助手席のヘッドレスト裏にタブレットPCをとりつけ、そこへ目的地や乗客の属性に応じたCMを流そうという試みである。すでにお客が乗り込むとポカリスエット(大塚製薬)のCMが流れ、画面をタッチすると乗務員から試供品をもらえるという「ポカリタクシー」サービス(16年1~2月)を先行実施し、好評を得ている。
「われわれは都内(23区と武蔵野・三鷹市)に3400台ものタクシーを走らせていますが、これはそのまま大きな広告媒体です。いろんな使い方ができるはずです」