【茂木】人間で考えるとずいぶん色っぽいしぐさですよね。
【山極】そうするとオスはたまらなくなってメスに突進していき、交尾をするというわけです。チンパンジーだと発情期に性皮といわれる陰部の周りが赤やピンクに腫れるので、オスにはメスの発情が一目でわかります。ただ、チンパンジーのメスが曲者なのはここからで、性皮が腫れ上がっている期間は2週間もあります。妊娠が可能なのは排卵日前のせいぜい3日ぐらいの期間ですから、生殖と直接関係ない交尾を群れの中の複数のオスと10日近く続けるわけです。集団に複数のオスがいることもあり、チンパンジーの交尾は別の社会的意義を持っていると推測できます。おそらくゴリラのメスもチンパンジーのメスも自分の排卵日がわかっているのでしょう。観察していると、行動に明らかな変化がありますから。
【茂木】人間の女性は排卵日かどうかなんてわかりませんよね。
【山極】排卵日を知ろうと思ったら、起きたときの体温を毎朝測らないといけません。性に関してはほかにも人間と動物で大きな違いがあって、動物は性に関してオープンです。私はゴリラの集団に密着して研究をしていますが、彼らの生殖行動を観察できるのは、性を隠さないから。近くでほかの仲間や私のような人間が見ていても、何も気にしない。一方で、動物は食事をオープンにしません。普段群れていても、食事のときは分散して食べている。たとえば、サルの世界では自分より上位の個体の前では食事はできません。食べ物を奪われてしまうからです。
【茂木】交尾を隠さずに食事を隠すというのは人間とは正反対ですね。
【山極】動物の場合、交尾を隠さないというより、その瞬間を集団のメンバーが知っていないといけないのです。
【茂木】なるほど。ソーシャルなデモンストレーションでもある。
【山極】人間が性をオープンにすると大変なことになります。家族と共同体という二重構造は壊れてしまうでしょう。
一時期、ヌーディストクラブというものがはやりましたが、いつのまにか消えてしまった。結局、人間は裸では生きられないということなのでしょう。
【茂木】人間が食事をオープンにしたのは、性の代替ツールにしようとしたからかもしれませんね。