挨拶を教えることよりも大事なこと
【若新】JK課をスタートさせた時の運営側のルールとして、「大人が教育しない」とか「大人がルールを押し付けない」ということを徹底してもらうようお願いしました。あの時、高橋さんは「市役所に出入りするからには、挨拶だけはちゃんと教えたい」と挨拶にこだわっていました。でも、「挨拶も、ひとまず教えずに待ってほしい」とお願いしました。実際、最初の頃は、JKたちはみんな挨拶はいいかげんで、携帯をいじったりしている。高橋さんはどんな気持ちだったんですか?
【高橋】最初は我慢、我慢、でしたね。JK課の担当であるからには、彼女たちとうまくコミュニケーションを取らなきゃという思いもあって。彼女たちとどう接したらいいのか、最初の3カ月は悩みました。
【若新】悩む時間が大事ですよね。悩んでる間って、自分にとっての常識やそれまでのやり方を考え直さざるを得ないし、いろいろ工夫すると思うんです。おそらくそれまでの市役所の仕事は、悩んで立ち止まるよりも、早くスムーズに進めることのほうが重視されてきたのではないですか。
【高橋】そうです。例年どおりに進めればいいという、「前例踏襲主義」が市役所にはありがちなパターンですからね。でもそれじゃダメなんだな、と今回は強く思いました。
【若新】考えてみれば、大人が悩む余地があるからこそ、そこに若者が入って来れるのではないでしょうか。時間が経つにつれて、JK課の1期生も高橋さんのことを慕うようになりました。あるメンバーに至っては、高橋さんのことを突然下の名前で呼ぶようになったし。
【高橋】あの時はびっくりしました。市役所の廊下の向こうから、大声で僕の名前を呼んで、手を振りながら近づいてくるわけですから。でも、仲間になったんだと思って、すごく嬉しかったんです。
【若新】JKという得体のしれないものに怖がって、怯えたまま「従来のやり方」や「大人の常識」という力で抑えようとしていたら、そんな感動的なシーンは生まれなかったですよね。女子高生とどう付き合えばいいかなんて、答えはすぐに見つからないからこそ、悩みながら時間を過ごしたり、我慢し続けることが必要だったんでしょうね。
ところで、現在はJK課の2期生が活動していますが、担当職員として、1年目と2年目では悩みに違いはありますか。
【高橋】1年目の最初の頃は、今も話したように、彼女たちとどうコミュニケーションを取るかということに悩んでいました。2年目は、最初から彼女たちとコミュニケーションは取れているので、この点では問題ありません。一方で、1期生は「まちづくり」よりも「JK課」を楽しんでいる子が多かったのですが、2期生は「まちづくり」そのものを楽しもうという子が多いという印象です。遊びの中で、まちのためにもっといいことをしたいと思っている。彼女たちの“高度な遊び”を、我々職員がどうサポートし、具現化していくかは悩みどころです。
【若新】「JK課」という遊びから、「まちづくり」という遊びへと進化しているわけですね。それにしても、高度になっても、“遊び”が残っているというのは大切なポイントですね。