好きな本を並べるだけでは、商売は成り立たない

ユニークなのは本のセレクト、POPだけではない。店で客を待つだけでなく、地域とのかかわり、つながりを大切にしている。異業種の勉強会や講演会などに積極的に参加し、著者のセミナーや講演会なども開く。カフェやレストラン、介護福祉施設、ハローワークなどとのコラボ企画を仕掛ける。そこに本を介在させ、必要とされる書物を紹介する。だからといって売り込むわけではない。おカネはあとからついてくるというのが基本スタンスだ。こうした地域での取り組みも、本屋を耕すことの一環といえるだろう。

店員が自分の好み、感性で選んだ本を売る、とはいっても、本屋は書店員にとっての自己表現の場ではないと著者は指摘する。好きな本を並べるだけでは、商売は成り立たない。きちんと売り、利益を出さなければならない。

実は、著者は家業の本屋を継いで7年間でつぶした経験がある。郊外にできたチェーン店に客を奪われた。だから、経営の難しさを身を持って知っている。当時は市場原理によって淘汰されたのだと納得しようとしたが、いまはそうではないと考えているという。「何かの、誰かの、そして時代のせいにすることであきらめるのは簡単」「実際には、自分自身に対応する力がなかった」と振り返る。それを認めるまでには長い時間がかかったが、その反省をいまに生かすことができていると語る。

モノが売れないのは多くの業界が抱える共通の問題だ。しかし、本書を読むと、いやいやまだまだ、工夫次第、やりようはあると思わせられる。業種を越えて商売や仕事のヒントが見つかるビジネス書である。

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