業界紙で、出版の川上から川下までを体験する企画を連載したことから、各地の書店とも縁ができた。
「本屋さんはもともと好きでした。自分の本を売ってくれる現場でもあるけど、何よりほかの業態に比べて楽しい。本屋には本単体でなく、料理にしても、お菓子やビールにしても、あらゆるジャンルのものと関わっていける可能性があります」
最初は、2011年刊の自著『小さいけれどみんなが好きになる モテる会社』の「書店版」をつくろうと企画した。
「ところが編集者から、それより本屋さんならではの心温まるエピソードを集めて、世の中の人に本屋の仕事をわかってもらうところから始めたほうがいいと勧められて、目から鱗。取材という口実で現場の話も聞けますし、それはいいと」
28の感動的な話、元気が出る話、くすっと笑ってしまう話を選び、ストーリー化した。
「業界では、ただでさえ悪いニュースしか流れてきませんし、再販制度の話をはじめ、問題がいっぱいあることは承知しています。けど、おもしろい取り組みをしている本屋さんと、本屋にいく楽しみを紹介していくのが僕の役割かなと思って」
脱稿してから逆に、ますます書店にのめり込んでいる。
「たとえば広島にウィー東城店という本屋さんがあります。周りは山ばかりで、お年寄りがまだラジカセを使っている。ところが壊れたら、電器店でも直せない。そうすると『ウィーさんへいって』と。つまり、ウィーさんだったら何とかしてくれる。年賀状でも、年を取ると手が震えて、書くのが大変。最初は代筆をしていたのが、いまでは高いコピー機があって、宛名も裏のデータもすべて管理してくれている。100人以上がウィーさんに頼んで、お店も利益が出るシステムになっているし、地域に欠かせないコミュニティとして機能しているんです」
巻末では、お客に「モテる」店になるためのコミュニケーション術も紹介。モノを売る人すべてにとってヒントになる。