「みんな日本が大好きなんです。会社も製品も人も。でも大きな欠点があります。全部ご破算になってしまうくらい、日本側の意思決定が遅すぎることです」
創業2年でヤマハやホンダを追い抜き、国内でEV(電動)バイクのシェアトップに躍り出たテラモーターズ。代表取締役の徳重徹さんは、インドやベトナムなどでの実感をそう語る。
「海外に行くたびに感じるのは、かつて何の実績もなかったソニーやホンダが世界で成功した功績が、今でも日本の強みになっていること。こんなにありがたいことはありません」
にもかかわらず、多くの日本企業は熟慮を重ねすぎるために、スピード感がないと指摘する。
徳重さんが見据えるのは、発展著しいアジアを中心とした海外市場。日本と大差ないガソリン価格のアジア諸国で、EVバイクへの関心の高さと、潜在的なニーズに手応えを感じている。
シリコンバレーで学び、帰国後にベンチャー企業を設立した徳重さん。“電動バイク界のアップル”を目指す。本書では、自らの経験から、「世界で戦うために必要な考え方」を説く。
徳重さんは常々、日本人は高い能力を持ちながら、「どうせ無理だ」と見えない天井をつくり、勝手に萎縮していると感じている。
「これだけ不確実な世の中で、80~90%の確度なんてありえません。60%もあればGOです。あとは現場で軌道修正すればいい。それに日本人が60%と感じるなら、アメリカ人なら70%、東南アジアに至っては80%くらいの感覚なんです」
失敗を恐れずに見えない天井を叩き壊せ、と声を大にする。
かつて野茂英雄選手が単身メジャーリーグに乗り込み、日本の英雄となった。
「僕がビジネスの世界で成功を収めて実績を出すことで、閉塞感のある日本に希望や新たな考え方を示し、多くの人が続くようになればいい。僕が一番やりたいのはこれなんです」
本書は若者やベンチャー志向の人以外の人の心も揺さぶる。
「今、大企業にいる人にも変わってもらいたいし、年齢も関係ありません。50歳くらいならローンもかなり返済し、子供も成長しているはず。何かに挑戦したいという気持ちがあるのなら、むしろ動きやすくなっているのではないでしょうか?」
徳重さんと同じ山口県出身の吉田松陰は、「時代の変革は、情熱と狂気によってのみ成し遂げられる」という言葉を残した。
「シリコンバレーでも、クレイジーはいい言葉なんです」
徳重さんはその言葉を体現し、全力で疾走し続けている。