今の仕事は「3つ目の部屋」
変なたとえですが、私の行動パターンは、流行りの「お掃除ロボット」ではないか、と思っています。あっちにぶつかり、こっちにぶつかりながら、「経験」という名のチリ(貶めていうわけではありません!)を思いっきり吸い込み、“部屋”がきれいになったら(=目標を達成したら)、今度は別の“部屋”を見つけ、移動していく。そんなイメージです。
そうだとすると、社会人になってからのキャリアでいえば、今までに2つの部屋をきれいにし、今私がいるのは3つ目の部屋ということになります。
1つ目の部屋は慶應義塾大学院医学研究科、研究者としての部屋でした。そこで私は網膜の病気の原因となる遺伝子を見つける研究に没頭しました。幸い、研究を着手して5年という時に、緑内症を引き起こす原因遺伝子のひとつ、ミオシリンを発見することができました。
その過程で、眼の神経、すなわち網膜から抽出した遺伝子を他の組織の遺伝子にかけあわせ、網膜のみに発現する遺伝子を見つけるという単純作業をひたすら繰り返しました。当時、人間の遺伝子は10万個と言われていましたから、気の遠くなるような作業です。でも私はめげませんでした。世界中の眼科の研究室が大きなチームを組んで大量の資金と人を投じ、同じような研究に取り組んでいました。その方法が大型ジェット機で移動するようなものだとしたら、私のやり方は自分の足だけを頼りにトボトボ歩いていくようなもの。でも、やり方さえ正しければジェット機に負けない自信がありました。まさに壁にぶつかりまくる日々でしたが、労苦は報われました。結果的には紙一重のきわどいレースではありましたが。
私の信条は、とやかく言わずに、まずやってみる。“Just Do It!”という言葉が大好きです。画期的なことを成し遂げると「コロンブスの卵だ」と言われたり、ときには「そんなことはわかっていた」などと言われたりもしますが、要はやるか、やらぬかであり、結局はやったもの勝ちということではないでしょうか。「コロンブスの卵」は結構転がっているものだと思います。