人の行く裏に道あり花の山

何より、飲み薬というアプローチが画期的、と評価されています。飲むだけですから、眼球内への注射を必要とする現在の治療薬と比較すると、患者の負担が非常に軽い。

私は、誰もやったことがないことに出合った瞬間、「これだ!」と思います。飲み薬で治すというアイデアを思いつき、他の誰もが成功していないことがわかった時、「自分がやるべきだ」と思いました。みんなが目指しているのとは別の方向へ行く。それが私のやり方です。競争相手はいないから成功の確率は上がりますし、仮にうまく行かなかったとしても、学ぶべきことが山ほどある。最初の目標には辿り着けなかったとしても、ある場所には辿り着くはずです。富士山には行けなかったけれど八ヶ岳に、エベレストは無理だったけれどK2には登頂できた。だったら、その景色を楽しめばいい。予定していなかった山の景色が想像をはるかに超えて美しいこともしばしばです。

山のような本や資料を集め、長い時間かけて読み込んでも、それは頭だけで理解したことに過ぎない。結局、自分で身体を動かし、経験として学んだことにはかないません。経験こそがその人の宝、なのです。いかに日々密度の濃い経験を積んでいくかが大切です。日々の成長は実感できなくても、こつこつ続けてしばらくたって振り返るとけっこうな成長が感じられることもあります。

研究者としての最初の部屋で10年、2番目の眼科医の部屋で10年、そして経営者としての今の部屋で11年になりますが、過去に研究者、眼科臨床医としてしかるべき業績を残しているという私の経験が、社外で出資をお願いしたり、社内で人をマネジメントしたりする時に大きな強みになっています。人生、やったことに無駄はないのです。現在目指している山はより困難なので少し時間がかかりそうですが、ネバーギブアップで登頂するまでやり続けたいと思います。

考えてみれば、子どもの頃から私は好奇心の強いお掃除ロボットだったのかもしれません。船乗りだった父親の仕事の関係で、10歳からアメリカで暮らしていたのですが、仲間づくりがしたくてはじめた新聞配達のアルバイトが面白くなり、将来はこれで身を立てたいと思ったことがありました。帰国後、役者になりたくてオーディションを受けたこともありますし、結局は肺に影があるという理由で落とされましたが、宇宙飛行士に応募したこともあります。