60分かかったオペ時間が10分に

2つ目の部屋は、眼科医としての部屋です。なぜ研究者の部屋を離れたかといいますと、ミオシリンの発見により研究者としての達成感は得られたものの、このまま研究を継続しても、私が生きているうちに失明の危機にさらされている患者さんを救うことはできないだろうと思ったからです。既に医師免許はもっていたので、本当に困っている患者をこの手で救うべきではないか、と。

そのためには手術の「数」が重要です。数多くの手術をこなせる病院として、教授から勧められたのが虎の門病院でした。ここで3年間働きましたが、その間、執刀医や助手として経験した手術は1000件にのぼり、手術の腕はみるみるうちに上達しました(研究を中心にやっていたので、スタートラインが低かったということもありますが)。

といっても、最初からうまくできたわけではありません。手作業が遅く、通常はせいぜい15分で終わる手術が1時間もかかっていました。これではいけないと奮起し、ひたすら練習に励みました。自分が担当した手術をしっかり振り返って記録にしたり、その様子を撮影したビデオを見返したりしただけではなく、豚の目を使って切開や縫合を繰り返しました。その結果、手先がどんどん器用になり、2年も経つと、どんなに丁寧に手術をしても10分あれば完成できるようになっていたのです。

私は究極のポジティブ・シンキング人間で、「努力は人を裏切らない」」「苦労が人を育てる」と思っています。もちろん、努力や苦労の結果がゼロどころか、マイナスとなることが明確な場合はまた別ですが、そうではなくて、何かが得られる可能性があるのだったら、喜んで苦労をしたい。苦労してもやり遂げたいと思う対象が見つかったこと自体、神様に感謝すべき幸せなことだと思います。