高級建材を用いた広々休憩室
私事になるが、筆者は新卒で大手小売業に就職した。配属された店舗の休憩室は、備品の倉庫も兼ねており、狭くて粗末な部屋だった。「店舗スタッフの休憩室などは無駄なコストに過ぎない」という会社方針が露骨に反映されていたと思う。
真逆の道を行く小売業がある。愛知県東三河地方に5店舗を展開する食品スーパーのサンヨネだ。「お客様第一主義ではなくパートナー(社員)第一主義」を掲げる同社は、粗利益の半分を人件費として社員に還元したり、社員の家庭生活を守るために営業時間は夜7時までだったりと、驚きの施策を淡々と実行しながら無借金の黒字経営を続けている。
「うちも12年前までは徹底したコスト削減で安売りを追求する会社でした。転機となったのは、北海道の六花亭製菓と長野の伊那食品工業を訪ねたことです」とはサンヨネの代表取締役・三浦和雄氏。六花亭は有給休暇取得率100%を誇る会社で、伊那食品は終身雇用、年功賃金を頑なに守り、利益は社員に還元することでも有名だ。
「どちらの会社も社員が幸せになってこそ、社会に貢献できるという考え。働いている人たちの笑顔があまりに自然で、部署などは関係なくお互いに協力して動く姿が美しかった。衝撃を受けました」(三浦氏)
各店舗の休憩室を覗くと、同社の「パートナー第一主義」が如実に伝わってくる。ブナやクリといった高級建材を惜しみなく使用した広々とした部屋であり、掘りごたつ式のテーブル席は床暖房になっている。
「私どもの仕事は魚売り場など、水を使う場所もありますので、冬場は体が冷えてしまう。店舗部分も含めて冷えにくい工夫をしています。休憩時は、部署や年齢に関係なくおしゃべりして疲れを取り、絆を深めることも大事。料理もできて明るく暖かい休憩室は必要な設備なのです」
自然な笑顔で働く社員たちに話を聞いても、「会社がここまでやってくれているから何とか応えたい」「笑顔が多い会社だから入社した。出勤が楽しみ」「中途で入社しても大切にしてもらえる。分け隔てなく教え合える社風は崩しちゃいけない」といった声ばかりだ。
規模も業種も異なる5社を訪ね歩き独自の取り組みを見てきた。共通していたのは、真剣な表情で働いていた社員に広報担当者などを通じてぶっつけ本番の取材協力を依頼すると、みな気軽に応じてくれたことだ。
経営陣からも同僚からも愛され、和気藹々とした職場での会話が当たり前になっている人は、他人を助けるゆとりがあるのだろう。信じ合い助け合うことが、人と人がともに働く唯一の意義なのだと強く思う。