フランスが提案するように四角の中に絵柄を入れると、走る人型と見ている人との関係が途切れてしまう。緑の下端を開けることで、走る人の空間が見る人の空間とつながり、走る人は見る人自身の姿になる。一方、イギリスの提案のように壁下にも白い隙間を入れると、壁と床が離れてしまう。人であれば避難するとき、足が床から離れる。建物とその影は動かないので離れない。動と静の対比関係を使うことで、避難の意味がわかりやすくなるのです。
最終的に87年、フランス案を受け入れることで日本案が国際規格になりました。
日本とソ連は事前に意見や情報を交換していません。それにもかかわらず、同じデザインといえるほど多くの共通性を持っています。国籍や文化、言語などの違いを超えて生み出されたこの共通性こそ、地球市民にとっての財産なのです。
まもなく30年! 日本発国際規格
デザインの基になったアイデアは、3000あまりの中から、識別性テスト、デザイン評価、心理テスト、照明実験、煙の中での見え方テストによる審査を経て選出。1987年、ISOに日本発国際標準化規格としてISO 6309「安全標識」(Safety signs)に組み込まれる。以来、日本が生んだ世界標準デザインとして、現在まで使用され続ける。
1939年、愛知県生まれ。多摩美術大学卒。同研究科およびイタリア国立美術学院修了。多摩美術大学元教授、日本サイン学会理事・元会長。著書に『ピクトグラム〔絵文字〕デザイン』(柏書房)、共著に『サイン・コミュニケーション』(柏美術出版)など。経済産業大臣賞ほか受賞多数。