生活が苦しくなったのは、グローバル化のせいなのか。早稲田大学政経学術院の戸堂康之教授は「人間は損失回避的なので、グローバル化にともなって所得が下がってしまうことを恐れるあまり、グローバル化の利益を過小評価しがちだ。分断が進むいまこそ、『よそ者』とつながるメリットに注目するべきだ」という――。

※本稿は戸堂康之『なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

暴動
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グローバル化による利益は過小評価される

グローバル化に限らず、人間は一般的に利益よりも損失を過大評価する傾向があります。その理由は、人間には「損失回避的」な性質があるからです。

損失回避的とは、2002年にノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のダニエル・カーネマンらが提唱したプロスペクト理論に基づいた概念です。簡単に言えば、人間は得をすることで感じる幸せよりも損をすることで感じる不幸せを強く感じるので、なるべく損をすることを避けようとするということです。

グローバル化に関する選択も同じです。グローバル化が進行すれば国内経済全体は成長していくので、その恩恵を受けて個人の所得も上がっていきます。しかし、新興国や途上国との競争のために、自分の所得が伸び悩む、もしくは実質的には引き下げられることもありえます。

人間は損失回避的ですから、グローバル化にともなって所得が下がってしまうことを恐れるあまり、グローバル化の利益を過小評価し、グローバル化に不安や反発を覚えるのです。

グローバル化に対する反感に結びつくもう一つの人間の本能的な性質は、格差を嫌うことです。1万年前に農業が出現するまでの狩猟採集時代には、群れのメンバーが獲得した食糧は全員に平等に分配されたといいます。このような平等主義は、現代でも主に狩猟採集によって生活している民族にも見られます。

これは生存のために有効な戦略です。獲物がたくさん取れたときに独り占めしてしまっては、あまり取れなかったときに誰にもわけてもらえないでしょう。常に食料を平等にわけあったほうが、集団の中の個人個人にとってもむしろ生存の確率が高まります。