もともと非常口のサインには、「非常口」の漢字3文字が使われていました。1980年から現状の非常口サインが日本で使われるまでに、いくつものステップがありました。

デザインした人 太田幸夫(デザイナー)

79年、消防庁は非常口サインのアイデアを一般に募集します。全国から寄せられた3000あまりの中から選ばれた入選作(図1)のアイデアを基に、58点のデザインバリエーションを制作し、1点が選ばれました(図2)。そのデザインは、中から外へ向かっているイメージを、一目でわかるようにしたものです。ここに「入選作のアイデアに見られた足先の影をつけてほしい」と条件が付け加えられました。

そのまま足先に影をつければ左側にある壁の影と接近しすぎる。足の角度を変えるだけでは全体のバランスが崩れてしまう。全身を微調整して現在の非常口サイン(図3)が完成します。このデザインが80年に日本案としてISO(国際標準化機構)に提出されました。

数年の審議を経て、ソ連案(図4)に決まりかかっていたところ、日本案が持ち込まれたので、ソ連は日本政府に抗議文を送りつけてきました。日本政府の意向を受けて私がデザインの立場から反論しました。82年4月のロンドン会議で、ソ連は自国の案を取り下げます。その結果、日本案が唯一の国際規格案になりました。

83年3月のノルウェー会議で、フランスとイギリスから日本案に対する部分的な修正案が出されます。フランス案(図5は四角い緑色の下端を閉じる、イギリス案(図6)は左右の壁下にも足先と同じ白い隙間を横に入れるというものでした。