ドヤ街・西成にある稼働率90%の施設
いま、日本のホテル業界は空前の好況に沸いている。14年の訪日外国人旅行者数は過去最高の1341万人。円安などの影響で、今年も昨年を上回るスピードで増えている。2月の中国の春節の際には、中国人観光客による“爆買い”が話題になったことも記憶に新しい。国内の宿泊施設を利用する10人に1人は外国人なのだ。
その結果、大都市圏や人気観光地のホテルの客室稼働率は軒並み上昇。とくに国内の人気観光地を結ぶ「ゴールデンルート」の西の玄関口となる大阪は、もともとホテルの客室が不足気味で、14年のシティホテルの客室稼働率は88.9%と全国一。そうしたことを背景に、海外から予約が殺到するユニークな宿泊施設が、もう1つある。
観光スポット「新世界」の最寄り駅でもあるJR大阪環状線新今宮駅で降りると、通りをはさんで街の雰囲気が一変する。建設労働者が集まる“ドヤ街”として知られる西成区あいりん地域だ。その一角にかつて労働者のための簡易宿泊所だった「ビジネスホテル来山北館」が立つ。毎朝、お土産が詰まった段ボール箱を両手に抱えたアジア系の若者や、バックパックを背負った欧米系の旅行者が、その来山北館から次々と出てくる(写真参照)。
和室、洋室ともに3畳間が基本だが、リノベーションされた室内は清潔で、オランダから来た高齢の旅行者も「気に入った」という。共同とはいえ浴場もある。昔は不要だった女性専用フロアも設けている。運営しているホテル中央グループの山田英範社長は「国内客と外国客の割合は半々ですが、外国客のほうが和室を好む傾向が強いようです」と笑いながら話す。
ホテル中央グループは、来山北館のほかに5つの同様のホテルをあいりん地域内で運営し、合計の客室数は約720にもなる。一番の売りは、全室Wi-Fi完備でシングル1泊2500円前後という圧倒的な低価格だ。
バブル崩壊以降、労働者を取り巻く環境が変わり、あいりん地域の宿泊客は激減。03年に家業を引き継いだ山田社長は、外国客向けのゲストハウスに業態転換を始める。HPを多言語化し、ホテルファインと同様に予約サイトに登録。さらにロビーの改修などを進めると、外国客が訪れるようになった。「客室稼働率は平均90%台をキープしています」と山田社長はいう。