東芝の不正問題と、「働くこと」の本質

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
http://wakashin.com/

【藤野】東芝の不正会計問題を見て思うことがあります。あの問題では、元社長を含め3人の社長が退任しました。もちろん、命令して社員を不正に追い込んだ罪は重いけれども、彼らは直接手を下したわけではありません。それ以上に罪深いのは、実際に粉飾に手を染めた現場の人たちです。ある人は故意に、ある人は知らずにやったのかも知れません。おそらく100人、200人単位の人が、上からの命令とはいえ粉飾に手を染めた結果、1500億円もの巨額粉飾になったわけです。

一方で、「これはおかしい」と疑問に感じた人たちは、会社を辞めていきました。そういう正しい感覚を持つ人たちもいたのです。そこで僕が、「僕だったら、不正を指示されたら辞めているよ」と言うと、「藤野さんは社会的強者だから」という話が必ず出てきます。「藤野さんは会社を辞めても転職できるだろうけれど、普通の人は、一旦組織に属したらそうやすやすとは辞められないものだ」と。命令した社長が悪いのであって、社員は悪くないという意見がすごくある。でも僕はそうは思いません。社長は悪かったけれど、社員も正しくなかったと思います。

【若新】どんな組織に所属していても、1人の働き手として「死んでいない」ことが大事というか、当然必要なことですよね。組織は、個人にとっては労働のための手段でしかないのに、組織によって不自由であることを堂々と主張してどうすんだ……と思います。マズイことに対しては「マズイ」と言って、時には自分から責任を追えるからこそ、ナショナル企業の看板を背負って働く価値があるわけで。

【藤野】僕らは組織に対してもっと自由であるべきだと思いますね。東芝で働くことも選択肢の1つであって、そこで素敵な仕事をするもよし、嫌なら会社を去って、また新しいことを始めればいい。しかし、自分が所属する組織の“器”を気にする人が結構多くて、場合によっては中堅企業に移ることが「負け」だと思っていたり。東芝の件を機に、「働くこと」の本質的な意味をそれぞれが考えるべきだと思います。

【若新】違法なことに手を染めて、そのレッテルを背負うことのほうが「負け」のはずなのに、変なところで戦いますよね……。どんなに会社が大きくなっても、人間としての浅はかさや愚かさは変わらないんだなと、つくづく思いましたね。

【藤野】そもそも僕らはしょうもない存在です。しょうもないことで怒ったり、喜んだりする。その“しょうもない人たち”が集まって事を成すのが「事業」であるわけです。ですから、NEET株式会社であれ、東芝のような大企業であれ、そこに属する人たちがいざとなった時に考えることは大して変わらないし、人と人との関わりも変わりません。僕は投資においても、そこを出発点に考えています。

(後編につづく)

(前田はるみ=構成)
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