“出世”をエサに巧妙に仕組まれた組織

▼エリート骨抜きの仕組み(2)キャリアパスというニンジン

社員を骨抜きにする仕組み、2つ目は出世というニンジンの前で本来の職務が機能停止状態に置かれていたことだ。

会社には不正を監視するいくつかの機能があるが「経営監査部」もその1つだ。ところが、東芝の経営監査部は、各カンパニー会計監査業務をほとんど行っておらず、経営コンサル業務しかやっていなかった。

しかも「監査対象としたいくつかの案件について、不適切な会計処理が行われている可能性があることや、少なくとも一定の会計処理をとるべき必要性を裏付ける事実を認識していたにもかかわらず、経営監査部がその会計処理について何らかの指摘等を行った形跡も見られなかった」(報告書)という。

では、なぜあえて不正を見逃していたのだろうか。報告書には興味深いこんな一文がある。

「P(経営トップ)の中には、経営監査部に一般的な意味における『監査』の役割を期待していなかった者もいた。(中略)また、人員配置においても、各カンパニーから将来事業部長になるためのキャリアパス的な位置づけで経営監査部に人を配置するというローテーションが組まれていた。そのため、経理や各カンパニーの業務に精通したベテラン等の人員が多く配置されることはなく、適切な監査を期待できる状況でもなかった」

つまり、経営監査部とは名ばかりで、実際は出世コースに上ったエリート社員のための“事業を勉強する部署”だったのだ。たとえカンパニーの不正な会計処理に気づいても、それを正そうとすれば今後の出世の道が絶たれることになる。窓際の社員ならいざ知らず、出世を目の前にしてそんな危ない橋を渡ろうとする者はいないだろう。不正に気づいても見て見ぬふりをせざるをえない。サラリーマンの弱みである"出世"をエサに巧妙に仕組まれた組織だった。