「業績評価制度」は不正許容の一因なのか

出世とくればカネである。報告書では不正を許容する原因の一つとして役職員に導入されている「業績評価制度」にも言及している。

「例えば、執行役に対する報酬は、役位に応じた基本報酬と職務内容に応じた職務報酬から構成されている。このうち職務報酬の40%から50%は、全社又は担当部門の期末業績に応じて0倍(不支給)から2倍で評価されることとなっており、このような業績評価部分の割合の高い業績評価制度の存在が、各カンパニーにおける『当期利益至上主義』に基づく予算又は『チャレンジ』達成の動機付けないしはプレッシャーにつながった可能性が高い」

著者の溝上憲文氏が多くの企業人事部などを取材し、知られざる人事部の「腹の内」をレポートした最新刊『人事部はここを見ている!』(プレジデント社刊)。

報酬の半分近くが業績に左右され、それが結果的に業績数値の改ざんにつながったと言っている。しかし、筆者は業績評価制度自体が悪いものだとは考えていない。日本企業の役員報酬制度は欧米企業に比べて年功主義かつ固定給部分が多い。そのためコーポレート・ガバナンスの観点から役員の業績責任を明確にするために業績変動給の割合を高めるべきだと言われている。

また、一般の社員には成果主義賃金制度を導入してぐいぐい締め上げているのに、役員だけが年功で固定給というのは不公正ではないかと考えている。問題なのは業績評価主義ではなく、それを逆手にとって不正な会計処理をするように仕向けていた経営トップの行為である。

つまり、チャレンジという無理難題な目標を設定し、達成できなければ、あなたや部下の給与も大幅に下がるぞ、という形で制度を悪用していた点にある。

報告書が指摘する東芝の「上司の意向に逆らうことができない企業風土」とは、サラリーマンの最大の弱みである「出世」と「カネ」を巧妙に駆使して醸成されたものだ。

一見、先進的とも思える人事の仕組みであっても使い方を間違えれば、社員の倫理観さえも剥ぎ取ってしまう恐ろしい武器に変貌する。組織・人事制度に携わる関係者はそのことを強く肝に銘じてほしい。

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