上司に逆らえぬ企業風土の作られ方

カネと出世が社員の倫理観を狂わせるのか――。

2014年までの7年間に1562億円の利益を水増ししていた東芝の巨額不正経理事件。7月21日に公表された東芝の第三者委員会の調査報告書には、辞任した田中久夫社長、佐々木則夫副会長、西田厚聰相談役の歴代3トップ主導による、

・利益のかさ上げ
・前倒し計上
・負債記録の先送り

などの組織的な会計操作の実態が露わにされている。

もちろんトップの責任は追求されなければならないが、経営トップの暴走を裏で支えた社員の責任も重い。

東芝といえば日本を代表する企業エリート集団だ。日本経済の一翼を担っているという自負や社会人としての矜持を持ち合わせている彼らがなぜトップの不正に反対するどころか、荷担してしまったのか。

報告書では「東芝においては、上司の意向に逆らうことができないという企業風土が存在していた」と一言でかたづけられている。

だが、そんなことはどこの会社でもいえることだ。企業風土だけでは東芝の社員がとった行動の特異性は浮かび上がってこない。

▼エリート骨抜きの仕組み(1)“財務屋”“経理屋”の養成

人事の視点から報告書を読むと、社員を骨抜きにするいくつかの仕組みが存在していたことがわかる。

その1つが「人事ローテーション」だ。

東芝では財務・経理部門に配属されると、定年まで同じ部署で過ごし、他の部署に異動することがなかった。これは人事用語で「機能別組織」と呼ばれ、その道一筋の専門家、プロフェッショナルを養成する効果がある。

これ自体は悪い仕組みではないが、報告書では「このような人事ローテーションの結果、過去に他の財務・経理部門の従業員の関与により不適切な会計処理が行われたことに気づいても、仲間意識により実際にこれを是正することは困難な状況にあったものと推測される」と述べている。

今回の不正事件には財務・経理部が深く関与していたこと、財務部長がCFOに昇進し、その後、取締役会の監査委員になる慣例があり、その結果、不正を隠蔽していた事実が指摘されている。つまり、経理・財務のプロフェッショナルというより不正の片棒を担ぐ“財務屋”“経理屋”を養成していたことになる。