東芝へのTOB(株式公開買い付け)が9月20日に期限を迎える。なぜ東芝はTOBによる上場廃止を目指すのか。早稲田大学大学院の長内厚教授は「東芝は、短期的な収益性を強く主張する投資家を遠ざけ、長期的な戦略の実行を目指している。この動きは評価するべきだ」という――。
シリコンバレーの東芝アメリカ電子部品本部
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今回は積極的に上場廃止を進めている

投資ファンドの日本産業パートナーズなど日本連合による東芝へのTOB(株式公開買い付け)が9月20日に期限を迎える。TOBが成功すれば東芝の株式の上場は廃止される。上場廃止後は企業価値を高めて5年後の再上場を目指すという(*1)。

本稿では上場廃止の積極的な意義を考えたい。東芝は2015年に東京証券取引所から特設注意市場銘柄に指定され、望まない形での上場廃止の危機が迫っていた。この指定は2017年に解除されるのだが、債務超過による上場廃止規定にも抵触していて、綱渡りでの上場維持であった。この時はいかに上場を維持するかが東芝の経営課題であったが、今回は積極的に東芝の上場廃止を進めている。

そもそも企業が株式を上場するのは広く市場から資金を調達し、事業の原資に充てるためである。逆に言えば、しばらくの間、東芝は市場から資金を調達することができなくなる。それ以上にメリットがなければ進んで上場廃止は行わないはずである。それではそのメリットとは何なのか。

「アクティビストの要望」の特徴

東芝の経営の問題は2015年の粉飾決算と2006年に買収した原子力事業子会社ウェスチングハウスの巨額減損処理に端を発している。この後、東芝は債務超過に陥り、第三者割当増資を行い、引受先にはアクティビストが名を連ねた。東芝は増資を行ったものの健全な事業への投資のための増資ではなく、あくまで当時の東証一部に上場を継続するための増資でしかなかった。

こうした短期的な施策はアクティビストの要望の特徴ともいえる。企業の経営者も企業の所有者である株主も企業の経営がうまくいくという目標については同じゴールを目指している。しかし、アクティビストに限らず投資家は、ともすると短期的な収益性に目が奪われがちだ。

短期的な収益性は主に企業経営の効率性、生産性によってもたらされる。利益とは売り上げとコストとの差分であるから、売り上げをさらに伸ばすか、コストをさらに削るしかない。短期的な収益性だけを考えるのであれば、現在儲かっている事業に集中し、それ以外は切り捨てることになる。