「効率性」だけでは変化に対応できない

話を東芝に戻そう。一時的に株を売り買いすることで利益を生み出そうとする投資家は短期的な企業の効率的な事業運営を期待する。これは投資家として正しい判断といえる。しかし、こうした効率性重視の考え方だけで既存の大企業を経営するとダイナミックな経営環境の変化や不確実性に対応しきれなくなる。

もちろん、効率性を度外視して無駄を認めればよいという話ではない。過去の東芝の経営が効率性を過度に欠いていた点は否めず、アクティビストの意見も一部受け入れながら経営を効率化するということも必要であっただろう。

ただ、長期的な成長戦略に舵を切ろうとする段階では、アクティビストの短期的な効率性重視の考え方だけではやっていけない。そして、島田社長体制になった東芝はまさに、長期的な成長戦略に舵を切り始めたところといえる。

ギネスにも登録された東芝のエレベーター

例えば、東芝には優れた技術を持ったエレベーター事業がある。筆者は現在、台湾の国立政治大学の客員研究員を務めていて、本稿も台北で執筆している。台北には日本企業が中心となって建設当時世界で最も高い高層ビルだった「台北101」がある。

台湾の台北101(写真=CEphoto, Uwe Aranas/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)
台湾の台北101(写真=CEphoto, Uwe Aranas/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

ここの展望台へのエレベーターには東芝の製品が採用され、当時世界最速のエレベーターとしてギネスブックにも登録されている。このエレベーターはわずか39秒で89階の展望室まで昇ることができるが、揺れはほとんど感じない。東芝の技術力がうかがえる。

たしかに、ビジネスとして見るとオーチスやシンドラーなど世界のトップメーカーの世界シェアには遙かに及ばない。また、これまでの東芝の他の事業とのシナジーも少なく、一時は売却の対象として検討されていた。

しかし、東芝の島田太郎社長は2022年6月にこの売却方針を撤回した(*2)。島田社長が進める「モノが作れるIoT企業」というIT技術の実装先のモノとしてエレベーターを活用したいということのようだ。

経営の効率性を高めて短期的な収益を増やすのであれば、予定通り東芝はエレベーター事業を売却した方がよかったのかもしれない。しかし、このようなやり方で東芝のコンピタンスを次々と売却してしまっては、その次の打ち手がなくなる。短期的な収益源にならなくても長期的な東芝の成長に必要な事業は残し、追加的な投資も行う必要がある。