日本企業が世界で勝つにはどうすればいいのか。東芝の島田太郎新社長は「人の欲望を利用して成長するビジネスは続かない。本当に世の中のためになっているのか、そういうマインドを持つ日本企業は多く、そこに希望を感じている」という。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授との対談を前後編でお届けする――。(後編/全2回)

※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事『「人と、地球の、明日のために。」東芝ができること』(11月25日公開)の一部を再編集したものです。

「顧客の欲望を満たせばいい」わけではない

【田中】島田社長のお話で鍵になるのは、顧客個人がどう思うかという点です。私は経営者が話すときに、どんな言葉を多用しているかに着目していますが、アマゾンのジェフ・ベゾスは「カスタマー(顧客)」という言葉をよく使います。彼は「カスタマー・セントリック(顧客中心主義)」を「顧客の声を聞き、イノベーションを起こして発明し、カスタマイズする(Listen, Invent, Customize)」の3つで定義しています。

【島田】「カスタマー・オブセッション」とよく言っていますね。

【田中】マイクロソフトのサティア・ナデラCEOも、企業文化として「成長マインドセット」(※1)の次に、「カスタマー・オブセスド(顧客の声に耳を傾ける)」ことの重要性に触れています。ジェフ・ベゾスもサティア・ナデラも顧客の声に耳を傾けるという謙虚な姿勢が成長マインドセットであると述べています。

GAFAMの経営者の方が個人や人間、顧客を見ている一方で、日本の経営者はいきなりデータの利活用やプラットフォームの話になってしまいます。どうすれば顧客個人と向きあえるようになるのでしょうか?

(※1)「Growth Mindset」の訳。スタンフォード大学教授でありキャロル・ドゥエック氏が提唱した、成長するための思考のこと。サティア・ナデラCEOは、マイクロソフトの企業文化を変革するためにこの概念を取り入れており、マイクロソフトのカルチャーの一つとして提示されている。

【島田】東芝とはどういう会社なのかというと、企業理念である「人と、地球の、明日のために。」という言葉どおりの会社です。私は「カスタマー・オブセッション」のような考え方には少々疑問を持っています。カスタマーの欲望を満たせばいいのか、それは果たして人のためになっているのでしょうか。資本主義の影を強く感じることがあります。

島田太郎氏
写真=デジタルシフトタイムズ
島田太郎氏

欲望を利用して成長するビジネスとは違う形を

【田中】確かに、その世界に閉じ込めてしまう一面もあるかと思います。

【島田】そのような一面を少し感じるのです。そういう企業が成功している側面もありつつも、製品を多く売ることやお金を多く使ってもらうことが本当に正しいのかどうか。それは東芝のカルチャーとは違います。僕はそれを大切にしたいと思っています。

例えばソニーは高級なおもちゃ会社で、洗濯機などの家電はつくりません。皆が面白いと思うものを作る会社で、これは素晴らしいことだと思います。パナソニックは二股ソケットに代表される、人々の生活を楽にさせる、生活に役立つ商品をつくっています。

では、我々はどうか。「人と、地球の、明日のために。」という理念どおり、世の中に全くないものを作り出して、人類の未来のために貢献することにスイッチが入る人が東芝には多くいます。

そういう観点で見ると、データビジネスなどはいやらしいビジネスのようにも見えます。ですから、それは本当に人と地球のためになっているのかを毎回聞くようにしています。人の欲望を利用して成長するビジネスとは違うビジネスの形です。僕はそのほうがビジネスとしてサステナブルだと思っています。そういうマインドを持っている日本企業の人は多い。そこをもう少し掘り下げて考えていけば、突破口はあるはずです。諦めていたことが突如として輝く時代が来るはずです。例を挙げると東芝には異常な人が多いんです(笑)。