東大出身者よりも「鳥人間コンテスト」出場経験者
【田中】今、日本でも「リスキリング(※4)」という言葉が注目されていますが、島田社長が在籍されていたシーメンスのあるドイツはリスキリングの先進国ですね。なかでもボッシュのような会社が最先端だと思います。ボッシュのリスキリングを分析してみると、産業のリスキリング、事業のリスキリング、社員のリスキリングを三位一体で進めていることが分かりました。産業と事業のリスキリングを定義できるような人材をリスキリングする。これが重要だと思いました。
(※4)DXや技術革新での変化に対応するため、新たなスキルを学ぶこと。
【島田】それをシステム思考といいますが、システムエンジニアリングの考え方はケネディ大統領が主導した月面着陸計画(アポロ計画)の時代につくり出されたものです。ゴールにたどり着く手段はいくつも考えられるけれど、最もよい方法はどれかを考え出す。目的がはっきりしてきたとき、これはハードウェアにやらせるべきかソフトウェアにやらせるべきか、むしろやらない方がいいのか、といった具合に全体のシステムとして考えることが極めて大切であり、その思考訓練が重要だと考えています。
具体例を挙げますと、私は以前、飛行機の設計をしていました。そこには東大を卒業した優秀な人間がたくさんいましたが、最も目立っていたのは「鳥人間コンテスト」に出場した経験のある人でした。鳥人間コンテストでは全体を取りまとめる必要があります。飛行機も巨大なシステムですから、一つのプロダクトというより、一つのシステムをつくり上げる必要があります。ものの見方がぜんぜん違う。頭がいい、悪いの問題ではないのです。
デジタル化を分解して考える
【田中】確かに飛行機の製造だったら分業になるところを、鳥人間コンテストでは数人ですべてを考える必要がありますよね。
【島田】チーフエンジニアはすべてのことを頭に入れていないと務まりません。そのような規模で全体を俯瞰して考える訓練が極めて大事になります。それをカスタマージャーニーに置き換えてもいいわけです。システム的に俯瞰的に見ているということですから。今、自分がやっていることから離れて、高いレベルでコンセプチュアルに見て、その中でなにをすべきか考え直す。このリスキリングが一番大事だと思います。
【田中】本当にそれがリスキリングですよね。ケネディの月面着陸という目標設定の話が出ましたが、人間は目標設定されると自分で考え始めるわけですよね。
島田社長は元々、細かい説明ではなく方程式を示すという話をされています。宇宙の話といえばイーロン・マスクですが、私は彼もベンチマークしています。イーロン・マスクは車を車と思わず、工場を工場と思わずに進化させてきました。工場をマシンをつくるマシンと捉えているわけです。彼のいう物理学的思考の工場版とは、「アウトプット(生産台数)=ボリューム(生産規模)×密度(サプライヤーを含めた生産拠点の稠密性)×速度」といった方程式です。この考え方で成長させてきた製造業の経営者は今まで皆無だったと思います。対して、島田社長の方程式はどのようなものでしょうか?