アメリカで同じことができる技術者はほぼいない
【田中】異常といいますと?
【島田】例えば、インフラを皆で使えるようにするために専用のOSではなくて、Linux(リナックス)を用いています。リナックスで運用しようとするとさまざまな問題も出てきますが、コストは安く、安定していて、顧客のためにもなります。儲けることよりも人のためになるかどうかを考えます。
ただ、リナックスには脆弱性があります。その問題を解決するためにOSを書き替えて、皆のインフラとして使えるようオープンにしました。普通の企業であれば儲からないことをやっていたら注意されますが、東芝では文句をいう人がいないどころか、むしろ賞賛されます。同じような例はまだあります。SQL(※2)はオラクルが世界中に普及したので、SQL自体のローエンドコードを書ける人がアメリカにはほとんどいないらしいのです。しかし我々は、IoT専用に世界最高レベルの「GridDB」というデータベースをつくりました。
(※2)データの操作や定義を行うためのデータベース言語。
ただ、そのままだと皆が使えないのでSQLで呼び出せるように、一からSQLのコードを書きました。そこまで手間をかけたらオーバーヘッド(※3)が発生するものですが、一からコードを書いているので大丈夫なのです。多分、アメリカで同じことができる人はほとんど残っていないと思いますが、我々の会社にはできる人がいます。これまでは、プラットフォームの上にプラットフォーム、プラットフォームの下にプラットフォームをつくるというレイヤー構造でした。今、あまり注目されていないレイヤーに新たなプラットフォームを出現させることができれば勝機はあります。
(※3)コンピュータの処理時に発生する負荷のこと。
日本企業に欠けている「オープン化」という考え方
【田中】別のレイヤー構造をつくるという発想ですね。
【島田】新しい構造をつくるにはオープン化しないといけません。かつ、どこでクローズの部分を持つのかということもはっきりさせないといけません。そういうシステマチックな思考が多くの日本企業には欠けていて、直接的なソリューションをつくってしまう。それをやめれば勝てると思います。
【田中】「人と、地球の、明日のために。」というレイヤー構造をどうつくるか。それに尽きるということでしょうか。
【島田】そうですね。ただ、レイヤー構造は常にモジュラー型(組み合わせ型)で更新されるものです。レイヤー構造をつくるアプリの構想もあるので、できれば会社を辞めて、僕個人でつくりたいと思っています(笑)。
【田中】そこはコンフィデンシャルな話ですか?
【島田】そんなことはなくて、いくつもアイデアはあります。なにか不便だなと思ったとき、ここにレイヤーをつくれば一気に楽になることはよくあります。僕がいいたいのは、そういった訓練を普段からすることが極めて大事ということです。決められた範囲内で最適の解を出そうとするのではなく、ゲームのルールを変えるという視点です。