自分自身を「フォロワー」の立場に置く

インクルーシブなリーダーは、他の人々にリードする権限を与える。役割を逆転させることで、リーダーは部下の能力開発を手助けするだけでなく、異なる視点を受け入れるという行動の手本を示すこともできる。

製造オートメーション・制御・情報ソリューションの大手プロバイダー、ロックウェル・オートメーションでは、こうした方法で謙虚さを実践することが、インクルーシブな文化(多様性を包含する文化)を促進するために不可欠だった。

このリーダーシップ・スタイルの手本を示すためにロックウェルのリーダーたちが採用した重要な方策のひとつが、対話を促進する「金魚鉢」と呼ばれる手法である。典型的な金魚鉢会議では、少数の社員とリーダーが部屋の中央に輪になって座り、その周りに大勢の他の社員が座る。どんな話題でも取り上げることができ、社員は自分の関心のある話題について互いに、またリーダーと対話するよう促され、内側の輪に入るよう勧められる。1年を通してさまざまな場所で開かれるこの台本のない会話で、リーダーたちはいつも謙虚さを示す。自分はなにもかも知っているわけではないということを認めたり、自分自身の成長や能力開発の歩みを紹介したりするのである。

同社が2007年に同性婚のパートナーに配偶者給付を与える方針を導入した直後の、ある金魚鉢会議で、信仰心の篤いある社員がこの新方針について何百人もの他の社員の前で懸念を表明した。あるシニア・リーダーは、この方針を擁護するのではなく、その社員を巧みに対話に引き込み、彼に質問をして彼の考えを理解しようとした。

このように対応することで、リーダーはその社員や彼と同じ見方をしている他の社員の考えをもっともなものと認めたのだ。他のリーダーたちは、自分の宗教的信念を守り、しかもすべての社員を公正に遇するという会社の価値観を受け入れなければならないというジレンマに自分はどのように対処してきたかを語った。ロックウェル・オートメーションでは、このような対話が明らかに違いをもたらしている。社員はリーダーを以前より信頼し、より強い参加意識を持つようになって、さまざまな違いを乗り越えて受容されていると強く感じるようになったのだ。

この例が示すように、無私無欲のリーダーは決して弱いリーダーではない。ここに述べたような方法で謙虚さを実践するためには大きな勇気が必要だ。それなのに、残念ながらこの種の勇気は組織では必ずしも報われない。企業は自己宣伝のうまい人間を選ぶのではなく、効果的なリーダーシップとは何かについて見直しを進めているグーグルやロックウェル・オートメーションのような企業の例に倣うほうが賢明だろう。

(翻訳=ディプロマット 写真=Getty Images)
関連記事
優しすぎる上司がもたらす恐るべきリスク
サーバント・リーダー「10の特性」あなたはいくつ該当するか?
人事部の告白! 有力企業が欲しい人材「6つの能力」
リーダーは育てるものではない、育つものである
とたんに売上3割増! 社長が変われば社員が変わる