「部下なし管理職」が急増した理由

そうなると当面の対象者は少なくとも年収1000万円以上(審議会報告書では1075万円以上、省令で規定)という要件だけが残る。しかも管理職には残業代が支払われない(深夜残業の支払い義務はある)ので管理職以外の人になる。

では具体的にどういう人なのか。じつは大手企業が最もターゲットにしたい人がいる。それは「部下なし管理職など40代以降の中高年社員」だ。部下なし管理職とは読んで字の如く、部下を持たせないまま身分を管理職に棚上げしてしまうことだ。一般的にはマネジメント力に欠けるのでライン管理職にはなれないが、長年培った専門性を持っているので「専門課長」というポストを与えている企業が少なくない。

そして一応、課長だからということで残業代を支払ってこなかった。しかし、08年のマクドナルド事件判決以来、「名ばかり店長」「名ばかり管理職」が世の中で問題になって以降、残業代を支払う企業が増えている。ある住宅関連会社もその1つだ。同社の人事課長はこう言う。

「設計やデザインなどの専門性を持つ、40歳を過ぎた社員がたくさんいる。でも管理職ポストが少ないし、マネジメント能力が劣る人もいる。そこで直属の部下はいないが、担当部門で力を発揮してもらう「専門課長」というポストを作った。当初はこれでうまくいっていたのだが、2年前に労働基準監督署の臨検が入り、(本来の意味での管理職ではない)専門課長に残業代を支払わないのは問題だと指摘され、支払うように指導を受けた。以来、残業代を支払うようになったが、その結果、ライン課長と同じか、それ以上の給与をもらう専門課長がいる。なんとかしたいが、打つ手がないのが実情だ」

この人事課長によると、同社では残業代を含めると年収1000万円以上もらっている専門課長も少なくないという。じつは大手企業になると非管理職でも45歳以上で年収1000万円を超えている人は珍しくない。おそらく同様の悩みを抱えている企業が多いのではないか。