「残業代ゼロ」の対象はいったい誰か?

 4月3日、安倍政権は「残業代ゼロ法案」(労働基準法改正案)を閣議決定した。いよいよ国会に提出され、与党の圧倒的多数のもとで法案成立も確実視されている。筆者はこのほど『2016年残業代がゼロになる』(光文社)という本を出版した。言うまでもなくこの法案が多くのサラリーマンに取り返しのつかないデメリットを与えるものであるかについて論じたものだ。

政府は「高度プロフェッショナル制度」と呼んでいるが、最大の関心は誰が対象になるかである。

しかし、政府が公表している審議会の報告書や法律案要綱からはその具体像がはっきりしない。

3月2日に公表された厚労省の「法律案要綱のポイント」では「高度の専門的知識等を必要とし、職務の範囲が明確で一定の年収要件(少なくとも1000万円以上)を満たす労働者」としている。だが、年収以外の「高度の専門的知識が必要となる業務」は極めて曖昧だ。具体的な業務は法案成立後の省令で定めることにしているが、業種・職種によって専門的知識を必要とする業務は数多くあるので限定する難しいだろう。ある党の厚生労働部会に招かれた厚労省の担当者は「最終的な基準は年収要件が歯止めになる」と言っていた。

ちなみに政府はこの制度を「時間ではなく成果で評価される働き方」と呼んできた。一見すると「成果主義賃金が適用されている人」のようにも思える。だが法律案要綱にはなんと書かれているか。「従事した時間と従事して得た成果との間の関連性が高くないと認められるもの」と明記しているだけで、成果主義の対象者であるべきだと義務づけているわけではない。

そうであればこれまでの年功序列賃金の対象者でもいいのだ。年功賃金は「従事した時間」との関連性はまったくないし、年齢や勤続年数で決まるからだ。これに関しては新聞もミスリードしている。

日本経済新聞は「脱時間給制度」と呼び、ご丁寧にも「働いた時間ではなく、成果に応じて賃金を決める働き方」という解釈までつけている(2月14日付「きょうのことば」)。