「2012年を境に風向きが変わりました。団塊の世代が定年を迎え、労働市場から退出しはじめたからです」

そう語るのは、元産業再生機構COOで、現在は経営共創基盤(IGPI)を率いる冨山和彦さん。大企業の多くが「メンバーシップ型雇用」を残したまま、非正規や下請けの形で低賃金労働を拡大してきた結果、「長時間低賃金労働で人件費を圧縮して安売りをする」(冨山さん)という仕組みの会社、すなわちブラック企業が台頭したのがバブル崩壊後の日本です。背景には労働力余りという事情がありました。

しかし、その環境がここ数年で明らかに変わってきたというのです。

IGPIの傘下には、東北や北関東のバス会社を束ねた優良企業の「みちのりホールディングス」があります。冨山さんによれば、かつて地方のバス会社には「安い給料で法律も守らずに運転手を酷使して売り上げを上げていた」タイプの企業が珍しくありませんでした。ところが、労働力不足が深刻化するなか、そんな会社は運転手など人材が集まらずにバス事業から続々と撤退しているといいます。

いまや労働力という「希少資源」を獲得するには、従来のようなブラック企業戦略を取るのではなく、適正な賃金と労働環境を提供しなくてはなりません。そんな時代の変化に加え、政府が旗振り役となった「働き方改革」が進み、企業は長時間労働の是正などに取り組みはじめました。

プレジデント2月13日発売号の特集は「『働き方』全課題60」。特集冒頭に登場する冨山さんは、この働き方改革についてこられない企業は「退出せざるをえない」と断言します。会社側は手をこまねいているわけにはいかないのです。

プレジデント 2017年3月6日号発売中!特集は『「働き方」全課題60 一挙解決ノート』です

たとえば、中小企業経営者のカリスマと呼ばれる小山昇・武蔵野社長は、2年ほど前から徹底的な「残業撲滅」作戦に着手し、主にIT投資によって従業員の平均残業時間を月76時間から同45時間へと激減させました。かつて長時間労働を当然視してきた小山さんが、持論を180度変えてまでこの作戦に取り組んだ意味は小さくありません。

さらに「仕事を休むのは元日の午前中だけ」と公言し、最近までハードワーク経営者の代表と見られてきた日本電産の永守重信会長も「2020年までに残業をゼロにする」という目標を掲げ、そのための生産性向上プランを次々と打ち出しています(日本電産の記事は3月13日発売号に掲載予定)。時代は大きく動いているのです。

今回の「『働き方』全課題60」特集では、冨山さんや小山さんが登場するほか、日本企業にとって喫緊の課題である働き方改革のための効率化手法、参照すべき国の制度、考え方などについて、さまざまな専門家がノウハウを開示しました。企業経営者や労務担当者だけではなく、働く個人それぞれにとって、間違いなく役に立つ1冊です。

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