残業代はコントロールできない
国会で審議されている労働時間規制の適用除外制度、いわゆる“残業代ゼロ”制度については人事部の関心も高いようです。政府は「時間にとらわれない自由な働き方ができ、プライベートの時間が増える」と主張していますが、人事担当者の見方は違います。
制度導入の狙いについてIT企業の人事部長は「残業代のコントロールができないからだ」と指摘します。
「給与は成果主義の強化によってある程度コントロールできますが、残業代は放置すれば膨れあがる一方です。1時間の残業単価が3000円とすれば、月20時間で6万円。年間70万円を超えます。残業しない社員と比べて、ボーナスでもそんな差はつきません。人事として部門別に残業代の予算を立てて、その中でなるべく収めるようにと要請していますが、それでも法律で決まっているので残業代をつけるなとは言えませんし、管理できないのが実態です」
といっても残業代を払わずに長時間働かせるのではなく、あくまでも残業の抑制が目的。では制度を導入すれば残業は減少するのか。食品業の人事部長はこう言います。
「残業代が出なくなれば、一生懸命に仕事をして早く帰ろうとするでしょう。残って仕事をするメリットがなくなるわけですから。中には仕事中毒の人間もいますから全員がそうとは限りませんが。ただし、劇薬には違いありません。世の中には最低の経営者もいるから、長時間働かせようという会社も出てくるかもしれません」
一方、IT企業の人事部長は法律で残業を全面的に禁止したほうがよいと言います。
「そもそも法律では週40時間以上働かせてはいけないのだから、残業を許している36協定(労働基準法36条に基づく労使協定)を廃止することです。全員が残業禁止の対象になり、残業代も出なくなれば、ダラダラ残業して稼いでいる社員もいなくなります。やるなら徹底してやるべきです。仕事が終わればさっさと家に帰るか、飲みに行くのもよし。本人にとってもよいと思います」
EU並みの残業規制をせよという意見です。ちなみにフランス、ドイツの1人当たりのGDPは日本より上。残業しなくても生産性が落ちるわけではありません。
※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。