軋轢すら生むほどの資産形成力に加え、世界の学術界・芸術界、さらにハイテク産業で存在感を見せる彼らのイノベーティブな力の源は、前述のタルムード教育に加え、何事もじっくり真剣に考え抜く時間にあるようだ。

「与えられた仕事をきちんとこなすのが日本人なら、それをいかに楽に行うか、そのために仕組みをどう変えるかを考え抜くのがユダヤ人」(星野氏)

“あくせく”という言い回しは一つのキーとなる。カレンダー通り「間に合わせる」ために働く状態を“あくせく”と呼ぶなら、“あくせく”はいわば時間に隷属している状態。そこで感じる充実感を倒錯と見るか否かは、議論の分かれるところだ。日本人が陥りがちなこの“あくせく”は、「マダムの言う『本当は望んでいないことに時間とエネルギーを費やす“努力の罠”』」(ユエン氏)とぴったり重なる。

「華僑に限らず、成功した人の多くは、絶対にうまくいく流れをどこかで掴んでいます。それを可能とするのは、ささいな幸運を見逃さぬ感性と、自分のすべてを肯定すること、どんな変化も受け入れられる考え方と行動力、自然に人生の流れに身を任せる信頼感、といったいくつもの知恵が必須です。直観力と洞察力を高めることで、自分にとって意味のある偶然の幸運が日常的に身辺に起こるようになり、ひいては人生のスムーズなサイクルに乗っていきます。肝心なのは、自分の強みやユニークさを生かすこと。他人と同じパターンでは成功はできません」(同)

ゆったり過ごす。考える。お金があるからできることだ、とあきらめるのはやや早計だ。お金があるからできることなのか、これができるからお金を貯められたのかは考える余地があろう。

幼少時から官庁・企業に属するのをよしとする価値観の下で育った人々と、家族や個人という最小ユニットで生き抜くために代々真剣に考えてきた人々。ヒトもモノもカネも国境を越えていく今の世界を生き抜くのはどちらかは自明である。だからこそ、ユダヤ・華僑の時間観から今、早急に学ぶべきことは少なくないだろう。

華僑の教え
1. あくまで悠然と。焦らず、急げ
2. 「チャンスが現れては消える」サイクルで考える
3. ネガティブなことを考えるのは、時間の浪費
星野陽子
東京都出身。外資系メーカー等を経て、フリーの特許翻訳者に。ユダヤ人と10年間の結婚生活を経て、著書に『ユダヤ人と結婚して20年後にわかった金銀銅の法則50』。

 
真弓・ナタリー・ユエン
海外投資家、社会心理学者。1975年、日本生まれ。企業勤務を経て2005年に国際結婚し、香港に移住。世界50カ国に滞在・渡航。著書に『「東の大富豪」の教え』。

 

(永井浩=撮影 時事通信フォト、PIXTA=写真)
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