「公家体質」から脱却できるか

磯崎氏は「これまでのキリンは公家集団で、闘う姿勢に欠けていた」と語り、変革の風を企業風土に吹き込み、業界で揶揄されてきた「公家体質」からの脱却を目指す。手始めに、屋上屋を重ねる経営体制で指揮系統が明確でなく業績低迷につながったとの指摘がある中間持ち株会社キリンとキリンHDについて、3月末に取締役、執行役員の体制を見直し、組織の一体的、機動的な運営を図る。さらに磯崎氏が復活に向けて真っ先に取り組む課題に、国内ビール系飲料事業の強化を掲げる。年初に発表した15年事業計画で主力の「一番搾り」を代表格に「ビールジャンルへの最注力」を打ち出し、反転攻勢を宣言したほどだ。

しかし、公家集団のぬるま湯体質と負け癖が付いたかつての王者が復権するには、期待と不安が入り交じる。なぜなら、政府が1月14日に閣議決定した15年度税制改正は、3ジャンルに分かれるビール系飲料に対する酒税税率の見直しに早期に結論を出すと明記したからだ。与党内で検討される税率見直しは、本流の「ビール」への税率を下げ、麦芽比率が低く低価格を売りとする「第三のビール」の税率を上げる方向にある。キリンは第三のビールに注力してきた結果、ビール系飲料に占める「発泡酒」と第三のビールの比率は約65%に達し、酒税見直しの影響は業界内で最も大きいとみられる。

ビールでトップを独走する「スーパードライ」を抱えるアサヒは、その比率が約35%と低く、キリンとの差は歴然としている。15年事業計画でビール最注力を打ち出したのも、税率見直しを視野に入れた判断だ。しかし、ビール離れが進み、市場が縮む中で量とシェアの二兎を追うのは並大抵でない。王者復活に賭ける磯崎次期社長にとって、多難な船出が待ち受ける。

(撮影=的野弘路)
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