シリコンバレーと日本の違いは「スタバ」にあり

【入山】日本のベンチャーの場合、まずは国内という考えが強い。

【伊佐山】その点でいうと、うちが出資したグミ(gumi)には期待しています。モバイルのゲームをつくっている会社ですが、売り上げの半分以上は海外です。社長もダイナミックで、外国語をマルチに操るタイプではないのに、中国やフランス、シンガポールなどに乗り込んで拠点を立ち上げています。彼は「俺は孫正義を超える」と大法螺を吹いていますが、それくらいの目線の高さは持っていたほうがいい。

【入山】伊佐山君はシリコンバレーの第一線で働いていました。シリコンバレーの強みはどこにあると思いますか。

【伊佐山】シリコンバレーと日本の違いについてよく質問を受けますが、最近の僕のお気に入りの答えは、「そこのスタバへ行けば、コーヒー一杯飲み終わるまでに答えがわかります」。シリコンバレーのカフェでは、起業家やベンチャーキャピタリストが日常的に会話をしていて、その中でビジネスの話が自然に生まれていきます。そうした空間がいたるところにあることが、シリコンバレーの強みですね。

【入山】日本は、逆の方向にいっています。たとえば横浜市は著名ベンチャー企業のカヤックを誘致し、助成金を出しているそうです。ところが、誘致したのは高層ビルの最上階。それを聞いて頭が痛くなりました。眺めのいいオフィスを提供するより、馬車道通りにイケてるカフェをたくさんつくってフリーWi-Fiにしたほうが、ずっとベンチャー育成に役立つ。

【伊佐山】インターネットが普及し始めた時期、シリコンバレーの一極集中が崩れるという議論がありました。世界中のどこにいても会話ができて、コードも書けるようになるから、分散に向かうというわけです。ところがここ5年で見ると、シリコンバレーの優位性はますます強まっています。特許数も、サンフランシスコとサンタクララで大きく増えています。

【入山】おっしゃるとおりで、僕もネットが発達するほど、人の近接性の価値はむしろ高まっていくと考えています。ネットで入手できる情報は誰でも手に入るから競争力につながらない。違いが出るのは、人と人のインタラクション。シリコンバレーの競争力の源泉も、まさにそこにある。

【伊佐山】そういう意味でいうと、東京はデカすぎる。もう少し小さな街単位で考えたほうがいい。たとえば渋谷は、「アイデア一発でデカい花火を打ち上げるぞ」というタイプの若い人が集まっています。ただ、40代は行きづらいので、新橋や虎ノ門あたりで、ビジネスの経験がある人たちが自然に集まれるような空間があるとおもしろい。

【入山】シリコンバレーは田舎であるということも強みかもしれません。少し車を走らせるとド田舎で何もなく、夜も早い。

【伊佐山】僕の場合、つねにアドレナリンが出っ放しの状況では、かえっていいアイデアが浮かびません。その点でいうと、オンとオフを切り替えやすいシリコンバレーの環境は最適。正直、東京は疲れます(笑)。

【入山】東京にシリコンバレーのような場所をつくるのは無理でしょうか。

【伊佐山】そこは発想を変えるべきです。逆にシリコンバレーに東京をつくってしまえばいい。税金を使ってどんどん人を送り込んでもいいし、私たちのようなやり方で人を送ってもいい。そこで吸収したものを日本に持ち帰ってもらえば、日本にとっても有益です。

【入山】経営学では、境界を越えて動き回る人のことを“バウンダリースパナー”といいますが、バウンダリースパナーを増やして日本を活性化させる戦略ですね。伊佐山君のように、シリコンバレーと東京を行き来して働く人が増えると、おもしろくなりそうです。