「海賊王」のように仲間を口説いた

10年11月。地方転勤からわずか1年で本社に呼び戻された。4カ月前の同年7月に始まったものの、暗礁に乗り上げていた淹れたてコーヒーのプロジェクトの立て直しを命じられたのだ。

しかし、専任メンバーは吉澤氏一人だけで、兼任メンバーたちは難易度の高いプロジェクトに関わりたがらない状況。予算もない。座席すらなかった。

「とにかく2カ月分の交通費予算だけを確保して、(別ブランドの)淹れたてコーヒーが先行導入されていた北海道、東北、中四国の店舗を回りました。何が問題かを見聞きしなければと思ったからです」

全国行脚で厳しい現実を知った。セルフ方式では味が均一にならない、女性はブレンドコーヒーをほとんど飲まない、「ローソン」の名が入っているコーヒーカップは興ざめする、などだ。

一方で、駐車場に入ってきた車を見分けた時点でその常連客のコーヒーを淹れ始めるオーナーがいる繁盛店にも巡り合った。吉澤氏はホスピタリティの高い接客こそが差別化に結びつくことを知る。

「海賊王を目指して仲間を集めていくルフィのように、私も兼任メンバーを一人ひとり口説きました。商品開発、システム、建設……。一つのブランドを立ち上げるのに、社内のさまざまな部門の力が必要です。そこでみんなにこう呼びかけました。『単にコーヒーを売るのではなく新しいマグネット(来店動機)をつくろう。コーヒーを通じて接客を変えよう』。10人いれば10通りの知恵が出て、融合させれば可能性がきっと開ける」

プロジェクト発足当時を振り返る吉澤氏の口調に熱がこもる。

「『ワンピース』の登場人物たちは常に逆境に立たされます。でも、壁があるのは当たり前。向こうに何かがある、だから壁があるのです」