大企業の最前線で活躍するエース社員たちの心を支え、成功に導いた本がある──。彼らのサクセスストーリーとそのバイブルを紹介しよう。

高くても指名買いされる理由

リクシル 田口 哲氏

システムキッチンの「サンヴァリエ<リシェル>」が2009年の発売以来、右肩上がりで販売台数を伸ばし続けている。キッチン自体、頻繁に買い替えるものではないため、前年比105%を達成すればヒットと呼ばれるこの世界で、同製品は109%という好調な売れ行きだ。

顧客の中心は30代で新築を購入する家族と、50代から60代のリフォームを検討している夫婦。中高級価格帯(100万円以上)の商品にもかかわらず、「このキッチンがほしい」とショールームに顧客が直接来るケースも多いという。

この商品を開発したのが、キッチングローバルビジネスユニット キッチン開発部の田口哲さん率いるチームである。

「入社以来ずっとキッチンの開発に携わってきましたが、システムキッチンはすでに成熟した商品ですから、なかなか簡単に新しいニーズが見つからない。それでも毎年必ず、何かしらの改良を加えた新商品を出していかなければならないので、じつはネタ出しが苦しいんです」

しかし改良の余地がないかというと、そんなことはない。おそらくユーザー自身も気づいていない、使いづらさや不便さがあるものだ。それを解消する商品をつくれば、顧客に支持されるはずだと田口さんは考えた。

問題は、その潜在的なニーズをどのようにして把握するかである。たとえば主婦に対して、「いまお使いのシステムキッチンに不満はありませんか?」と聞いてみたところで、出てくるのは本人が意識していることだけ。アンケートなどの定量調査や、インタビューなどの定性調査では限界があると感じていた。そんなとき、「行動観察」という手法があることを生活工学の専門家から聞いて知った。7~8年前のことである。

行動観察とは、消費者も意識していないニーズを探る方法として、いま各方面から注目を浴びているものだ。その名のとおり、ひたすらユーザーの行動を観察することから始まる。結果を分析し、そこから商品開発のヒントを探る。この手法を取り入れてしばらくしてから、書店の専門書コーナーで出合ったのが『ヒット商品を生む観察工学』という本だ。