忘れられない失敗がある。スーパーバイザー時代に不振店のオーナーとぶつかってしまったことだ。近所に競合店ができて焦りを募らせるオーナー。QSC(品質・サービス・清潔さ)を愚直に向上させるしかない。吉澤氏の目には「できていない点」ばかりが映った。
「ポンポンと指摘していたら、怒ったオーナーさんに『担当スーパーバイザーを代えろ』と会社に直訴されてしまいました。上司からは、『おまえの言っていることは正しいけれど、弱っている人を追い込んじゃいけない。相手の状況も理解して、段階を踏んで伝えなければダメだ』と叱責されました。正しいことを言えば人が動くわけではないのですね」
現場での7年間を経て、本社に異動。「おにぎり屋」「ごはん亭」などのブランド構築に関わった。「もっと現場のことを考えろ」「もっとお客様のことを考えろ」と言われ、知恵を絞る日々だった。
その後、次世代システムの開発等を経てふたたびマーケティング部へ。自身が開発に関わったシステムを活用した施策を試みたが、結果が出なかった。
「3カ月で地方支社への転勤を命じられました。分析が拙い、出直してこい、と。二度と本社には戻らないと思ってマンションを売り払い、家族を連れて引っ越しました。いま思えばやりすぎでした(笑)」
現場に近いところで修業し直せという経営陣の考えがあったのかもしれない。しかし、当時は「やってきたことが全否定された」としか思えなかった。悔しさで意気消沈していたとき、すがるように求めた本がもう一冊ある。ヨーロッパで読み継がれている古典、バルタザール・グラシアン著『賢人の知恵』だ。正しいことをやっていても認められるとは限らない、賢く生きろと「究極の処世術」を説く。失意の底にあるとき寄り添ってくれた。