国民の生活を守る基準を忘れないでほしい

【塩田】消費税率の8%への引き上げは昨年10月に実施が決定され、今年4月から実施になりましたが、このときは実施決定前に「早期の引き上げの決断を」と唱えていましたね。

【山本】海外の投資家から「日本の財政状況は厳しい」という話も聞いていたし、当初、私はむしろ増税したほうがいいと言っていました。それはアベノミクスの金融緩和で円安になれば、輸出が伸びるから、その分で消費税の悪影響の分は相殺できるので大丈夫だろうと予測していたのです。ところが、輸出は一向に伸びず、方針変更する必要があると考えるようになりました。私は消費税増税自体に反対というわけではありません。財政再建も重要なので、将来を考えれば、基本的には増税は避けられないと思っています。ただ、タイミングが問題なのです。

【塩田】なのに、今回は再増税延期の旗を振っています。

【山本】4月の増税で、アベノミクスは冷水を浴びせられて、下手をすると、失速しかねない状況だと思います。4~6月の四半期は増税の反動減があるのは当然ですが、7~9月期は戻ると見ていました。今年度の実質成長率も、落ちても0%まではいかないだろうと思っていましたが、いまは成長率はゼロかマイナスになるのではと心配しています。

輸出がまったく伸びない。工場の海外移転が大きい理由です。輸出構造が変わってしまった。消費税増税の影響を相殺する材料がないから、マイナスの影響だけが残った。消費の数字なども極めて悪い。実質所得がマイナスとなり、消費マインドが落ちています。 180度、方針転換するしかありません。1度、間違いを犯したわけですから、2回目は間違いを犯さないようにしないと、アベノミクスは沈没するという危機感を持っているのです。

本当は消費税再増税の延期どころか、取りあえずマイナスの影響を防ぐためにも、減税や、補正予算による給付金、補助金などを考えなければいけない状況だと思います。少し遅きに失したと思っていますが、日銀がぎりぎりのタイミングで追加金融緩和をやってくれたので、なんとか持っています。だが、それだけでは不十分です。株高と円安で、資産家や企業家はいいけど、マイナスの実質賃金という状況で一番、影響を受けているのは低所得者です。やはり手を打たなければ。

【塩田】安倍内閣の税率再引き上げの判断は11月下旬から12月上旬といわれていますが、来年度の予算編成の時期が迫っています。大蔵省(現財務省)の出身の山本さんは予算編成の内幕にも詳しいと思いますが、増税実施の判断と予算編成との関係は。

【山本】増税を延期するなら、できるだけ早く決断したほうがいいと思いますね。ただ財務省は、来年10月からの実施決定と延期決定の両方を想定して、両方の対応策を用意していますよ。役人とはそういうものです。この前、財務省の佐藤慎一主税局長がきて「どんなことがあっても対応できるようにしておくのが役人です」と言っていました。

【塩田】安倍首相の胸の内をどう読んでいますか。

【山本】安倍さんは延期したいのではという感触を持っています。実施を決断して、経済がダメになったら、安倍内閣が吹っ飛ぶ可能性もありますから。

財務省は一所懸命、増税実施の根回しをしているらしいですよ。安倍首相も大変苦しい決断をせざるを得ませんが、最後は国民の生活を守る、少しでも暮らしを豊かにするという基準は忘れないでほしいと思います。