奈良雅弘氏が分析・解説

この事例は、相手との関係性を変容させることで、相手の主体性を引き出し、束ねようと試みるもので、「関係アプローチ」と呼ぶべきものである。

「束ねる」にまつわる失敗例を見ると、人間関係ができていない中で、強引に自分の主張を押しつけ、相手の反感を買って何も動かなくなってしまったという場合が非常に多い。

対して成功例では、信頼関係をつくってから事を進めたケースが多い。「この人は嘘を言わない」という認識が相手にあれば、受けとめ方は好意的になり、成功の可能性も高くなる。

樋口氏の話は、失敗と成功の双方を体現している。同じ人物が、同じメンバーに対し、同一のテーマ(売り上げアップ)を発しているのに、結果はまったく違ったものになった。

両者を隔てていた境界線が失われ、両者がともに「主体」であるような関係へと進化したこと以外に原因は考えられない。樋口氏の「率先垂範とコミュニケーション」がそれを実現させたのである。

アール・アンド・イー合同会社代表 奈良雅弘
1959年生まれ。東京大学文学部卒業。人材育成に関する理論構築と教育コンテンツ開発が専門。著書に『日経TEST公式ワークブック』(日本経済新聞社との共編、日経BP)がある。
(森本真哉=撮影)
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