色を極める
「基準というものは競合相手との比較によって定まるものではありません。他のホテルと比較して私たちのホテルが優れていたとしても、お客様が幸せでなければ、意味がないのです。他社との比較ではなく、お客様と比較することで、自分たちがどこにいるのかはっきりと見えてきます」
シュルツさんのいう、「お客様との比較」とは、「お客様が自分たちに何を望んでいるのかを考え抜く」という意味です。
「他社が何をしているということではなく、あくまでもお客様が私たちに何を望んでいるかが大事なのです」(シュルツさん)
企業の掲げるビジョンこそ、自分たちのカラーです。自分たちが何色か、すなわち、自分たちの存在意義は、お客様の存在によってこそ明らかになるのです。
誰のために色を出していくのか、それをはっきりさせることで、自分自身の色を出すことに、自信と力が生まれます。
いしかわミュージックアカデミーの江口先生は、受講生に、「自分の色を出しなさい、自分の声で歌いなさい」と言った後、予想外の指導をしました。「あなたに読んでほしい本がある」 といって、デンマークの作家による、“Babette's Feast”(バベットの晩餐会) のあらすじを話したのです。
あらすじを話し終わると、先生は受講生に向かい、今度は自分らしくピアノを弾くように促しました。弾き始めた受講生の音色は、最初に聞いたものとはまったく異なるものでした。演奏以上に違っていたのは表情です。緊張していたせいなのか、厳しい表情だったものが、弾く喜びが笑顔に表れ、頬には赤みがさしていました。その演奏は、誰に届けられたものだったのでしょう。“Babette's Feast”をたとえに、江口先生は、喜んで食べてくれる人々の存在あってこそ、その人のつくる料理の素晴らしい個性が際立つ、ということを受講生に教えていたのです。
「私たちのホテルでは、ビジョンに共感する選りすぐりのスタッフが、働くことを楽しんでいます」(シュルツさん)
自分の色で勝負することで、お客様に喜んでいただける。それは、スタッフにとっても喜びなのです。シュルツさんは、ビジョンを持って働くということを、一枚の美しい絵を描くということにたとえます。その絵は、働く一人ひとりが違う色を持っているからこそ、美しく仕上がるものなのです。