世界最高峰のホテリエ、H・シュルツ氏が語る「サービスの真髄」
“We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen”。
「これは、ホテル学校での課題作文につけたタイトルです。唯一Aをもらいました。そのとき私は15歳でした」
ドイツの田舎町に生まれたホルスト・シュルツ氏は、11歳のとき、両親に「ホテルで働きたい」と打ち明けた。両親は驚いた。シュルツ氏は、生まれてから一度もホテルにもレストランにも行ったことはなかったし、ホテルで働いている知り合いさえいなかったからだ。なぜホテルで働きたいと思ったかは、いまとなっては覚えていないという。
郵便局員だった父は、できればシュルツ氏には医者になってほしいと思っていた。しかし、決意が固いことを知ると、母親はシュルツ氏を、街でいちばん豪華なホテルに連れていき、ホテルの支配人ホテリエになりたいという息子の願いを伝えた。
シュルツ氏はバスボーイの仕事に就けることになり、こうして片道3時間の通勤が始まった。
「ホテルに来る人はみんなVIPの紳士淑女なのだから、あなたも身なりをきちんとして、髪をきれいにとかして彼らにふさわしい人間になりなさい」と母親に言われ、身を引き締めて向かった初日、足は1日中、震え通しだったという。
数週間後、レストランにヘッドウエーターが現れると、空気が変わるのをシュルツ氏は感じた。客席にいる大勢の美しい身なりの紳士淑女たちが、彼を、そのなかでの最高の紳士と認めていることに気づいたのだ。
「彼の立ち居振る舞い、仕事ぶり、どれをとっても美しく、優雅でした」
その日から、70歳のヘッドウエーターが、シュルツ氏の目指すお手本となった。
ホテルで働き出すと同時に、シュルツ氏はホテル学校に通うことになる。その1年半後、「仕事をするということに対して、以前と比べてどう考えが変わったか書いてごらん」と先生に言われて書いた作文が、冒頭のものだ。
「自分が一流でなければ、一流の人に仕え、一流の仕事をすることはできない。一流になれば、お客様からも敬意を持って接してもらえる。それをヘッドウエーターが私に身をもって示してくれた。そのことを作文に書いたのです」
現在、ウエストペース・ホテル・グループを率いて世界中を飛び回っている伝説のホテリエのサービス哲学が、誕生した瞬間だ。