ブランドと消費者との絆である「ブランド・エクイティ」は、企業にとって重要な財産である。その維持のためには、消費者市場を細分化して、各市場に対応するコミュニケーション戦略が必要であると筆者は説く。
化粧品会社では、売上高の3分の1がマーケティング費用
企業は、市場に向けてさまざまな活動を行う。そのほとんどは、みずからの商品を市場で販売するための活動である。小売り店頭に商品を並べるために、流通チャンネルの小売業者に販売促進費を支払う。また、その商品を広く消費者に認知してもらうために、テレビや新聞などのマスメディアを使って大量の宣伝広告をする。
洗剤等の日用雑貨品メーカーでは売上高の15%分くらいが、そうしたマーケティング費用に回される。化粧品会社ともなると、売上高の3分の1にもなる会社もある。こうした期待を担って支出されるマーケティング費用であっても、もし、その商品がうまく売れなければ、支出した費用と努力はまさに水泡に帰してしまう。買った機械なら再販売できるだろうし、買った技術なら特許を通じてなにがしかの収益を確保することができる。しかし、販促費や広告費は、外に流出してしまい、企業にはそのあと何も残らない……。
しかし、そうではない。商品を販売するために支出された販促費や広告費は、市場に向けた投資でもある。うまくやれば、たとえその商品が市場で受け入れられなかったとしても、企業に重要な財産を残すことができる。それは、流通業者との絆(=信用)であり、消費者との絆(=ブランド・エクイティ)である。ここでは、ブランドについて話を進めよう。
デイビッド・アーカーは、ブランド・エクイティという概念を提起する。そして、その中身となる要素として、
(1)消費者がこのブランドでなければならないというロイヤルティをもっているかどうか
(2)ブランドの名前が知れ渡っているかどうか
(3)そのブランドから高い品質がイメージされるかどうか
(4)ブランドから質のいい連想が生まれているかどうか
といった要素が含まれると言う。
気づかれたことと思うが、いずれの要素も、企業と消費者との継続的な繰り返しの関係から生まれてくるものである。何回か購入せずして、ロイヤルティもないだろう。ブランドの名前も毎日のように宣伝かPRで刷り込まれなければ、すぐ忘れ去られてしまう。高い品質イメージも、ブランドから生まれる豊かで深みのある連想も、毎日のマーケティング諸活動、さらには購入・使用経験を通じて獲得される。