ブランドXにとってみれば、どの細分化された市場も重要だ。ブランドXを大好きな「高いロイヤルティをもった層」は、次の機会において、一番ブランドXを買ってくれる確率が高い層である。しかし、そこにだけ、コミュニケーションを集中してよいわけではない。嫌いな人を好きにさせる努力も、飲まない人に飲んでもらう努力も、そして時々しか飲まない人にもたびたび飲んでもらうための努力も、同じように重要だ。
4つとか5つとかいろいろだが、とにかく、ブランドに対する消費者の関心は異なり、ブランドと消費者との関係は異なる市場を形成する。そうしてつくられた市場なので、それぞれに独特のコミュニケーションが必要となる。関係の違いによって、メッセージの意味がまったく逆になってしまう、これがコミュニケーションの不思議なところ。そういうわけで、せっかく4つの市場に分けたのだから、それに対応する4つのタイプのコミュニケーション戦略をもたないといけない。
図の上は、「ブランドXが嫌いな層」。その層に向けてのコミュニケーションは、ブランドXがこれまで何十年もの間、飲料として高い評価を得てきたことを伝えることだろう。素材の確かさや安全性も訴求ポイントになりそうだ。
最近、流れている〈三ツ矢サイダー〉のテレビCMの1つ(品質編)は、そうしたものだろう。「透明はごまかせない」を謳い文句に、「磨かれた水、果実などから集めた香料のみを使い、非加熱製法の爽やかな味わい、また保存料を一切使わず、安心、安全、自然な透明炭酸飲料です」と訴え、「126年目を迎えた国民的炭酸飲料」としての歴史を伝える。
次の「知っているが、飲まない層」に対しては、飲むためのきっかけとなる機会を提供することが重要だろう。ブランドXを買うと、著名な音楽祭やスポーツ・イベントに参加できるとか、プレミアムグッズが手に入るとかといった手法は、ブランドX購入へと直接に誘導するものである。こうしたキャンペーンは数多くなされるだろうが、ブランド成長の視点で言うと、狙いの焦点はこの市場にある。
第3の「時々しか飲まない(ライトユーザー)層」に対しては、飲用機会についての気づきを与えることが重要だ。時々しか飲まない人にとって、飲用機会はほかにもいろいろあることを教えることが必要だ。たとえば、個人的な気分で飲むだけでなく、仲間が集まる楽しいパーティや、家族の団らん用飲料にふさわしいものだと認識してもらえればよいわけだ。