省エネが進展している日本にとって、さらなる排出量削減を実現するには、よりコストが高い方策しか残されていない。筆者は費用対効果のよいCO2削減策として、「セクター別アプローチ」と「LCA」へ期待を寄せる。

2050年までにCO2を80%削減できるか

今年6月、麻生太郎首相は、12月にデンマークのコペンハーゲンで開かれるCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)で議論されるポスト京都議定書の次期中期目標に関して、日本としては、2020年までに温室効果ガス排出量を05年比15%削減するという方針を打ち出した。この方針を実行に移すためには、省エネ努力とは別に、排出量削減のための規制強化でエネルギーコストが上昇することなどの影響で、一世帯当たり年間7万6000円の費用負担が生じるという(『中日新聞』09年6月22日付)。

続いて、7月にイタリアのラクイラで開かれたG8サミット(主要8カ国首脳会議)では、先進国全体として、50年までに温室効果ガスを80%以上削減する(基準年は「1990年または、より最近の複数年」)という長期目標が宣言された。

茅陽一編著、秋元圭吾・永田豊著の『低炭素エコノミー』(日本経済新聞出版社、08年)が行った試算によれば、温室効果ガスの大半を占めるCO2(二酸化炭素)を05年比80%削減するためには、先進国の国民が一人当たり年間8万円(一世帯当たりでは、日本の場合、年間19万2000円)程度、費用負担することが必要だという。この試算にもとづいて、同書は、「50年に80%削減はあまりに費用負担が大きく、実現はほとんど不可能に近い」と、結論づけている。

このように、先進国において、温室効果ガス排出量を削減することには、膨大なコストがかかる。とくに日本の場合には、先進諸国のなかでも省エネが突出して進展しているため、さらなる排出量削減を実現するには、よりコストが高い方策しか残されていない。

表1・表2
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表1・表2

表1は、日本でCO2削減効果が大きいと見込まれる対策項目を、効果が大きい順に並べたものである。これら10項目の20年における05年比CO2削減量の合計値は1億4000万トンであるが、これは、05年度の日本の温室効果ガス排出量13億6000万トンの10%強にとどまる。

これらの対策だけでは、麻生首相が打ち出した「15%削減」という中期目標を達成することはできない。表1には登場しないが、1項目だけで20年に05年比1億6800万トンのCO2削減効果が見込まれる「原子力発電の拡充」という対策を、あわせて採用せざるをえないのである。一方、表2は、日本でとられているCO2削減のための主要な対策項目を、費用が大きい順に並べたものである。これら10項目にかかる対策費用の合計値は、20年までに約50兆円に達する。

ここまで述べてきたように、先進国でCO2を削減するには、膨大なコストがかかる。この傾向は、日本の場合、とくに著しい。

あまりにコストがかさみ、費用対効果が悪いと、いくら崇高な温室効果ガスの排出量削減目標を掲げても、その実現は困難になる。日本の場合、財政状況の悪化がネックとなって、思い切ったCO2削減対策を講じることが困難になり、20年に15%削減の中期目標も、50年に80%削減の長期目標も、絵に描いた餅になりかねない。