直面しているのは「日本環境問題」ではない
何か、それほどコストがかからない、費用対効果がいいCO2削減策は、ないものだろうか。このような問いに悩まされていたとき、目からうろこが落ちる思いをしたことがある。
今年の3月、パリのIEA(国際エネルギー機関)を訪れたときのことである。筆者の質問に対して、同機関のチーフエコノミストであるF・ビロル氏が、「CO2を削減するコストは、先進国でよりも発展途上国でのほうがはるかに安い」と答えたのである。
たしかに、われわれが今直面しているのは、「地球環境問題」である。けっして「日本環境問題」ではない。日本国内での思い切ったCO2削減がコスト上の理由で困難なのであれば、発展途上国を中心にした海外で、日本の技術力を動員して思い切ったCO2削減を進めればいい。そのほうが、はるかに費用対効果はよくなる。
日本企業の省エネ技術の水準は、発展途上国企業のそれをしのぐばかりでなく、多くの場合、欧米企業のそれをも上回っている。高水準の日本の省エネ技術を海外に移出し、普及すれば、地球全体での温室効果ガス排出量を劇的に減らすことができる。このような考え方をとるのが、最近、地球温暖化対策の新しいグローバル・スタンダードとして注目を集めつつある「セクター別アプローチ」である。
セクター別アプローチとは、温室効果ガスの排出量が多いセクター(産業・分野)ごとに、国境を越えてエネルギー効率の抜本的向上を図り、温室効果ガス排出量を大幅に削減しようとする考え方である。これに最も熱心に取り組んでいるのが、鉄鋼業界である。
鉄鋼業界では、APP(クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ)のもとにタスクチームを設け、06年から08年にかけて、APPに参加する日本・アメリカ・中国・インド・韓国・オーストラリアの6カ国の製鉄所で、代表的な省エネ技術や環境技術の普及状況を精査した。
調査対象となったのは、高炉・コークス炉・転炉での副生ガス回収、コークス乾式消火(CDQ)、高炉炉頂圧発電(TRT)、石炭調湿(CMC)、微粉炭吹き込み(PCI)、焼結工程・熱風炉・転炉・ペレット製造工程での廃熱回収、電炉スクラップ予熱などの省エネ技術や、コークス炉ガス脱硫、焼結排ガス脱硫・脱硝、ペレット工場排ガス脱硫・脱硝などの環境技術であった。