石炭火力のベストプラクティスで大幅削減が可能

世界の発電の主流を占めるのはあくまで石炭火力なのであり、当面、その状況が変わることはない。国際的にみて中心的な電源である石炭火力発電の熱効率に関して、日本は、世界トップクラスの実績をあげている。したがって、日本の石炭火力発電所でのベストプラクティス(最も効率的な発電方式)を諸外国に普及させれば、それだけで、世界のCO2排出量は大幅に減少することになる。

今年6月にまとめられた総合資源エネルギー調査会鉱業分科会クリーンコール部会の報告書によれば、アメリカ・中国・インドの3カ国に日本の石炭火力発電のベストプラクティスを普及させるだけで、CO2排出量は年間13億4700万トンも削減される(04年実績基準)。この削減量は、05年度の日本の温室効果ガス排出量(13億6000万トン)の99%に相当する。

日本の石炭火力のベストプラクティスを米中印3カ国に普及すれば、イタリア・ラクイラサミットで決定された長期目標(05年比80%削減)が課した規模の温室効果ガス排出量の削減は、50年を待たずして、すぐにでも超過達成されることになるわけである。

費用対効果がいいCO2削減策としては、セクター別アプローチのほかにも、LCA(ライフサイクルアセスメントないしアナリシス)という考え方がある。LCAとは、商品が環境に与える影響を、原・燃料の採取から加工・販売・消費を経て廃棄にいたるまでの全過程を視野に入れて評価する方法である。

LCAの考え方に立って、世界的な規模でCO2削減に取り組んでいる業界としては、化学業界をあげることができる。化学製品を使用することによって、断熱、照明、包装、海洋防食、合成繊維、自動車軽量化、低温洗剤、エンジン効率、配管、風力発電、地域暖房、グリーンタイヤ、太陽光発電などの諸分野で、温室効果ガス排出量を大幅に削減できるのである。

ICCA(国際化学工業協会協議会)がイタリア・ラクイラサミットにあわせて発表した報告書は、「化学工業により可能となる温室効果ガス排出量削減は、同業界による排出量の2倍以上に相当し、30年までの削減可能性は4倍を超える」、と結論づけている。

誰の目にも明らかなように、地球温暖化防止は、人類にとってもはや避けることのできない最重要課題の一つであり、現実的で有効な防止策の早急な実施が求められている。「現実的で有効な防止策」であるか否かを分かつのは、費用対効果のよし悪しである。その意味で、費用対効果のよいCO2削減策であるセクター別アプローチやLCAへ寄せる期待は大きい。

(平良 徹=図版作成)