楠木 建教授が分析・解説
目標を設定したら、必ずそれを実現していく。三木谷氏はビジネスマンに求められる要素として、「戦略性」「実行力」「オペレーション(事務処理)能力」の3つをあげるが、なかでも自身が組織を引っ張ってきた原動力は「実行力」にあったと話す。
楽天が「否定論の嵐」に見舞われていた時代、三木谷氏とときどきお話しする機会があった。「資本も事業基盤もない後発組の楽天がニフティーモールやソネットモールに勝てるのか」と懐疑的な見方が強かった頃である。
ネットモールとリアルの商店街が対立的な構図でとらえられていた時代にあって、当時の三木谷氏は、「インターネットショッピングこそ落ち込んでいく中小の商店街の受け皿になれる」と語っていた。また「家の中に自動販売機がきても、欲しいものがなければ何も買わない」というロジックで従来型のネットモールを全否定していた。
三木谷氏が語る戦略ストーリーは抜群に面白くて、聞いているだけで興奮したものだ。当時、彼の話を聞いた人は言っていることの30%どころか97%は意味不明だったと思うが、そこに「ひょっとしたら」という期待感があったことを鮮明に覚えている。
1964年、東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。2010年より現職。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『戦略読書日記』。