社長も夕方5時半には帰ってしまう

このように、同社が推進する「働き方改革」は、社員のワークライフバランスを向上させ、社員が能力を最大限に発揮することを実現しつつある。

多くの日本企業でも、女性社員に向けて育児と仕事の両立を支援する制度を拡充してきたが、女性社員の復帰率は上がったものの、その大半が短時間勤務で戦力にならないなどの課題を抱える。一方同社では、「柔軟な働き方」を認めた結果、時短を取得する社員は減り、今では数%しかいないという。

さらにマクロ的視点で考えても、その効用は大きい。

「本社から遠いなど地理的に不利な場所にいても、コミュニケーションギャップを克服しやすくなり、何でもかんでもシンシナティ本社が決めるということがなくなりました」(臼田さん)

もっとも、P&Gの社員がここまで自由度の高い働き方ができるのは、経営側と従業員側が相互に信頼し合っているという土壌があるからにほかならない。鷲田さんも、「制度という箱だけをつくるのは簡単。でも、それを使う側が、何のためにこの制度があって、その礎となるものは何なのかを理解していないと、悪用する人は必ず出てくる」と指摘する。

そこへいくと同社では、10年以上にわたり、「柔軟な働き方」を定着させるための風土改革を続けてきた歴史がある。

「私が入社した1993年は、まだお茶くみをしている女性社員がいたほど女性活用は進んでいなかったし、ダイバーシティの重要性を説いても男性社員から『それの何がいいんですか』と何度質問を受けたかわかりません。それでも、繰り返し、経営戦略上必要なんだと説明して、20年かかってようやく、全社的に意識が浸透した。そのくらい風土を変えるのは大変です」

それでも風土改革が実現できたのは、「トップのコミット」があったからこそだという。

「実際、桐山一憲前社長も奥山真司現社長も、『自分が音頭を取る以上、社長の俺が例外では通用しない』と、自身が夕方5時半には帰る」のだとか。

このように、トップが柔軟な働き方を推進する意義をブレずに言い続けたこと、徹底して実践してみせたこと、そして何といっても、社員を働いた時間で評価するのではなく、自らが立てた目標の達成度合いで評価する「結果ありき」の評価体系が確立していたからこそ、同社の働き方革命は成功したといえる。

改革は手段と目的がすぐ逆転する危険性がある。制度は本来、何のために必要なのか? その目的を社員全体が共有することが、ダイバーシティ改革の第一歩だということを同社の事例が証明している。

関連記事
「残業も転勤もOK」のモーレツ社員がいなくなる日
「在宅勤務」導入率42%の米国にみる3つの効用
「働きやすさ」と「働きがい」はどこが違うのか
「世界の働きたい企業ランキング」日本勢はなぜ不人気なのか
糸井重里さんに聞く「働き方ブーム」の裏側(1)